【11月3日 東方新報】中国・海南省(Hainan)万寧市(Wanning)にある正大興隆コーヒー文化園では、コーヒー豆を焙煎する香ばしい香りが漂っている。ここでは半世紀以上にわたり、伝統的な炭火焙煎の技術が受け継がれてきた。

1950年代、東南アジアから中国に帰国した華僑たちが、海南省にコーヒーの種を持ち帰った。興隆の地に植えられたコーヒーは、その後、栽培が広がっていった。1952年には、新中国初のコーヒー工場とされる太陽河コーヒー工場が興隆に設立され、中国におけるコーヒーの大規模栽培が始まった。

1960年、周恩来(Zhou Enlai)首相は興隆華僑農場を視察した際、現地のコーヒーを試飲し、「興隆コーヒーは世界一流だ。私は外国のコーヒーを数多く飲んできたが、やはり自分たちで栽培したコーヒーがおいしい」と称賛した。これをきっかけに、興隆コーヒーは「周恩来首相も飲んだコーヒー」として知られるようになった。

東南アジアから帰国した華僑の高齢世代にとって、コーヒーは単なる飲み物ではなく、生活文化の一部でもある。現在も興隆では、コーヒーを飲みながら揚げパンの「油条」を浸して食べる習慣が残っており、華僑の故郷への思いが日常の食文化に受け継がれている。

伝統的な興隆コーヒーには、一般に広く流通するアラビカ種ではなく、かつて帰国華僑が持ち帰ったロブスタ種のコーヒー豆が使われている。

ロブスタ種は酸味が非常に少なく、苦味が強いのが特徴で、カフェイン含有量は1.7~4.0%と、アラビカ種の約2倍に達する。

興隆の伝統的な製法では、ロブスタ種の豆を鉄鍋で焙煎する。職人が火加減を調整しながら、バターや白砂糖、食塩を加えることで、濃厚でありながら苦味が強すぎず、香り豊かな独特の風味に仕上げる。この伝統的な製法は無形文化遺産として受け継がれており、手作業での製造には限りがあることから、希少性の高いコーヒーともいわれている。

正大(海南)興隆コーヒー産業開発有限公司の葉剣(Ye Jian)総経理は、「すべてのコーヒー豆がカラメルで覆われるようにすることが大切です」と説明する。

焙煎の過程ではメイラード反応が起こり、豆は次第に濃い褐色へと変化する。葉総経理は、その色合いをインターネット上で使われる表現になぞらえ、「さまざまな色合いを持つ黒」と紹介した。

また、コーヒー豆にはカフェインやタンパク質、脂質、食物繊維、ショ糖などの成分が含まれていると説明し、日常的にコーヒーを飲む習慣について肯定的な見方を示した。

興隆は北緯18度に位置し、熱帯海洋性モンスーン気候に属する。火山岩が風化して形成されたセレンを含む土壌や、太陽河の水など、コーヒー栽培に適した自然条件に恵まれている。

こうした栽培環境と華僑の歴史を背景に、興隆コーヒーは中国の国家地理的表示保護製品に認定されている。コーヒーは、海外に暮らす華僑と故郷を結ぶ特産品としても親しまれてきた。

近年、興隆コーヒーは伝統的な製法を守りながら、新たな市場の開拓にも取り組んでいる。その後押しとなっているのが、海南自由貿易港の「ゼロ関税」や「加工付加価値」に関する優遇政策だ。

同社は海外から輸入した生豆を海南省内で加工し、付加価値率が30%を超えた製品を中国本土の他地域へ販売することで、通常8%の輸入関税の免除を受けている。

2025年12月18日、海南自由貿易港で全島を対象とする特別な税関管理制度が始まった初日、正大興隆コーヒーはコーヒー製品として初めて、加工付加価値に基づく関税免除制度を利用した取引を実現した。現在では、この制度を活用した取引が通常の業務として定着している。

同社は、原料の調達先と製品の販売先をいずれも海外に置く加工貿易にも取り組んでいる。コロンビアから輸入した高品質のコーヒー豆を海南省内で加工し、オーストラリアへ輸出する一方、輸入豆を独自にブレンドして品質を高めた製品を北京など中国国内にも販売している。

海外と国内の両市場で販路を広げており、2025年には、イタリア国際カフェテイスティング協会(IIAC)が主催する「国際カフェテイスティング競技会」で金賞を受賞した。

葉総経理は、受賞によって大口注文の獲得に向けた自信が高まったと話す。同社はインドネシア、日本、韓国などへの進出も視野に入れ、中長期的な海外市場の開拓を進めている。

今後の年間売上高については、社内で大きな目標を掲げているという。

葉総経理は「私たちの顧客には華僑の方が多くいます。中国の産業発展を長年支えていただいていることに感謝しています。私たちのコーヒーも、華僑の故郷に伝わる味を受け継いでいます」と語った。

文化園の壁には、「指導者の思い、華僑の故郷への思い、人々の絆」を意味する標語が掲げられている。興隆コーヒーが歩んできた歴史には、こうした人々の思いが深く関わっている。

興隆コーヒーは70年以上の歴史を持つ。近年、万寧市ではコーヒー産業の基盤と観光資源を生かし、栽培、加工、販売と観光体験を組み合わせた産業振興を進めている。

正大興隆コーヒー文化園では、伝統的なコーヒー加工場と近代的な生産設備を組み合わせ、観光客がコーヒーの製造工程を学べるようにしている。また、栽培園でコーヒーの木を観察したり、特定のコーヒーの木のオーナーになる「コーヒーの木オーナー制度」を体験したりすることもできる。

万寧市農業農村局の傅佑軒(Fu Youxuan)氏によると、同市ではコーヒー産業と農村観光を結び付け、コーヒーをテーマとする農園や観光施設などの事業形態を育成している。

また、店舗の背後に加工施設を設け、製造工程の見学と商品の購入を組み合わせた体験型ビジネスも推進している。

さらに、コーヒー産業の商談会や文化交流イベントの開催、各種品評会や展示販売会への参加などを通じて、興隆コーヒーの知名度向上を図っている。

コーヒー産業の発展は、地元農家の雇用創出にもつながっている。

地元政府は、コーヒーの栽培、加工、販売に携わる事業者の育成を支援し、周辺農村の住民の雇用を促進している。また、村の集団経済組織が産業事業に参加し、収益の分配を受ける仕組みも模索しており、農村振興につなげる考えだ。

伝統的な華僑のコーヒー文化から加工貿易、観光体験まで、興隆コーヒーは産業の裾野を広げながら、新たな成長の可能性を探っている。(c)東方新報/AFPBB News