北朝鮮のキム・ヨジョン(金与正)朝鮮労働党総務部長=朝鮮中央テレビ(c)news1
北朝鮮のキム・ヨジョン(金与正)朝鮮労働党総務部長=朝鮮中央テレビ(c)news1

【10月21日 KOREA WAVE】北朝鮮のキム・ヨジョン(金与正)朝鮮労働党総務部長が韓国向け拡声器放送の再開を示唆し、イ・ジェミョン(李在明)政権の対北朝鮮政策が再び試練に直面している。政権発足直後に南北双方が放送を停止したことで得られた緊張緩和の成果が、失われる可能性があるためだ。

キム・ヨジョン氏は10月19日、「われわれは主権守護を言葉だけで語らない」と題する談話を発表。軍事境界線(MDL)付近で「国境線の要塞化」を進める北朝鮮軍に対する韓国軍の警告放送や警告射撃を非難し、対抗措置として韓国向けの騒音放送再開を検討していると明らかにした。9月30日の談話でも、非武装地帯(DMZ)の地雷爆発事故は北朝鮮軍が埋設した地雷によるものだとする韓国軍の調査結果に反論し、「戦術的反撃手段」の前方配備を警告していた。今回は「戦術的打撃手段」に加え、拡声器放送の再開にも言及した。

イ・ジェミョン氏は就任1週間後の2025年6月11日、ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が実施した北朝鮮向け拡声器放送の停止を指示。北朝鮮も翌12日に騒音放送を止め、境界地域の住民の負担軽減など、目に見える緊張緩和につながった。北朝鮮が放送を再開すれば、韓国側も対抗放送に踏み切らざるを得ないとの見方が強い。南北関係は再び深刻な対立に陥りかねない。キム・ヨジョン氏は今回、イ・ジェミョン政権の対北朝鮮姿勢がユン・ソンニョル政権を上回る対決路線だとも非難した。

米朝対話の見通しも不透明だ。トランプ米大統領は19日、11月に中国・深圳で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせてキム・ジョンウン(金正恩)総書記と会う可能性を問われ、「分からない」と答えた。専門家は、従来より慎重な発言で、北朝鮮から反応を得られていないことを示すとみている。

一方、拡声器放送への言及は、実際の再開よりも、要塞化作業を妨げる韓国軍の警告を抑えるための圧力だとの分析もある。慶南大学極東問題研究所のイム・ウルチュル教授は、キム・ヨジョン氏が警告放送や射撃の回数まで挙げた点に注目。韓国側が対応するたび、北朝鮮側は作業員の一時撤収などを迫られ、工事に支障が出ていると指摘した。また、北朝鮮は従来、韓国側の拡声器放送を非人道的で敵対的な政策と批判しており、自ら先に再開する可能性は高くないと分析した。韓国軍関係者も、2000年代以降、北朝鮮が先に放送を予告した例はないと説明した。拡声器の補修は談話以前から確認されており、現時点で特別な意味を持つ動きとはみていない。

今後のMDL付近の衝突防止や境界線再画定を巡る交渉を見据え、優位を確保する狙いも指摘される。ただ、現在、再画定協議が進んでいるわけではない。MDLは1953年の休戦協定で設定されたが、標識1292個のうち約1000個が失われた。韓国軍と国連軍司令部の座標にも違いがあり、北朝鮮は別の衛星測位システムを使うため、三者の認識にはずれがあるという。

北韓大学院大学のキム・ジョン教授は、北朝鮮には独自の境界線認識に沿った要塞化の成果を維持し、将来の交渉でも譲歩を抑える意図があると分析。韓国政府に対し、軍事会談を求め続けるとともに、国連軍司令部を通じて立場を伝えるよう提言した。

(c)news1/KOREA WAVE/AFPBB News