【10月7日 東方新報】中国・湖南省(Hunan)湘西トゥチャ族ミャオ族自治州(Xiangxi Tujia and Miao Autonomous Prefecture)竜山県の惹巴拉景勝地。谷間に銅鑼や太鼓の音が響く中、観光客と出演者が「擺手堂」の前で輪をつくる。膝を軽く曲げて腰を落とし、太鼓のリズムに合わせて腕を振る。数十人、多い時には100人を超える人びとが歌に合わせて歩みながら、トゥチャ族の伝統舞踊「擺手舞」を踊る。

擺手舞は、武陵山地に位置する湖南省の竜山、保靖、永順などで受け継がれてきた。特徴的なのは、同じ側の手と足を同時に動かす独特の動作だ。一見ぎこちなく見えるが、地元の人びとは滑らかに踊る。

民族学を長年研究してきた吉首大学(Jishou University)の陳廷亮(Chen Tingling)教授によると、この動きは武陵山地の生活環境と深く関係している。かつてトゥチャ族の多くは山あいや谷間に暮らし、細い山道を横向きになって歩いたり、斜面をよじ登ったりすることが日常だった。そのため、重心を低くし、同じ側の手足を動かす身体の使い方が身についたという。陳教授は、一見不自然にも見えるこの動きについて「山地で暮らしてきた人びとの知恵を受け継いだもの」と説明する。

擺手舞には「大擺手」と「小擺手」がある。トゥチャ語で大擺手は「葉梯嘿」と呼ばれ、「神を敬う舞い」を意味する。小擺手は「舎巴日」と呼ばれ、「祖先の神に見せる舞い」という意味を持つ。古くからの祖先祭祀に起源を持つと考えられ、清代の『永順府志』や『竜山県志』などにも記録があり、その歴史は1000年近くに及ぶ。

力強い動きと明快なリズムが特徴で、年齢や性別、体格を問わず誰でも参加できることから、「東洋のディスコ」とも呼ばれる。吉首大学音楽舞踊学院の陳旋(Chen Xuan)氏は、大勢が参加して一緒に盛り上がるという点で、ディスコと擺手舞には共通する部分があると話す。

「トゥチャ族は、歩けるようになれば擺手舞も踊れる」といわれるほど、踊りは人びとの暮らしに根付いている。惹巴拉景勝地では休日になると擺手舞が披露され、出演者の多くを周辺の村民が務める。観光客も加わって大きな輪をつくり、人数が増えるほど会場はにぎわうという。

擺手舞には、祭祀や狩猟、農作業、移住、民俗などを題材としたさまざまな動作がある。田を耕す、苗を植える、糸を紡ぐといった日常の仕事も踊りに取り入れられてきた。陳氏によると、トゥチャ族の人びとは代々、日々の労働や暮らしの記憶を舞いの中に残してきた。

生活や生産のあり方が変化した現在、擺手舞にも新たな表現が生まれている。伝統的な姿勢やリズムを生かしながら現代舞踊の振り付けを取り入れるなど、現代の感覚に合わせた作品も作られている。

一方、村では古くからの儀式も受け継がれている。中国の国家級無形文化遺産の代表的伝承者、張明光(Zhang Mingguang)氏によると、春節(旧正月、Lunar New Year)前後に行われる擺手舞では、「神を迎える」、祖先を祭る、場を清めるといった一連の儀式があり、村で人望のある「掌堂師」が取り仕切る。

擺手舞の第25代掌堂師で、90歳近い張氏は現在も後進の指導を続けている。竜山県で開かれる「舎巴日」の祭典では、長い棒を手に歌いながら舞い、全体を取り仕切る。歌には祖先の移住を伝える古い物語だけでなく、農作業の時期を知らせる内容も盛り込まれている。

擺手舞が行われる「擺手堂」は、伝統文化を伝えるだけでなく、村人同士の交流の場としても機能してきた。陳教授によると、村人の間に対立があっても、祭りで酒を酌み交わし、一緒に踊る中で話し合い、関係が改善することもあるという。

近年は観光との結び付きも強まっている。惹巴拉景勝地ではイベントのたびに多くの村民が出演を希望し、2025年には40万人を超える観光客が訪れた。観光客の増加は村民の出演収入につながるほか、周辺の民宿や飲食店、特産品の販売にも波及しているという。

擺手堂の前では今も、銅鑼や太鼓の音に観光客と村民の笑い声が重なる。人々が輪をつくり、歌に合わせて踊る光景の中に、トゥチャ族が長年受け継いできた暮らしと文化が息づいている。(c)東方新報/AFPBB News