【10月2日 CNS】中国の「AI都市」と聞くと、北京市や上海市といった大都市、あるいは深度求索(DeepSeek)が誕生した杭州のようなイノベーション都市を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、中国北部には、常住人口155万人、面積5万4500平方キロの草原都市でありながら、「AI都市」と呼ばれる街がある。内モンゴル自治区(Inner Mongolia Autonomous Region)のウランチャブ市(Ulanqab)だ。

ウランチャブには、より直接的な「トークン(Token)の都」という呼び名もある。その理由は分かりやすい。AIの計算能力を支えるのは大量の電力であり、トークン生成のコストも電気料金に大きく左右されるからだ。

ウランチャブには石炭、風力、太陽光と豊富なエネルギー資源がそろう。クリーンエネルギーの設備容量は2028万キロワットを超え、市全体の発電設備容量の67%を占める。さらに、地域の電力網が独自に料金を設定できるという強みもあり、データセンター向けの電気料金は1キロワット時当たり約0.35元(約8円)と、中国東部に比べ30~40%安い。

また、ウランチャブは北緯42度に位置し、年間平均気温は約4.3度。年間のうち約10か月は外気を利用してデータセンターを冷却できる。内モンゴル自治区にありながら北京との直線距離は約300キロで、北京と直結する2本の光ファイバー回線によって、片道の通信遅延を2.1ミリ秒まで抑えることができる。

こうした条件から、華為技術(ファーウェイ、Huawei)は2013年、中国本土で2か所目となるクラウドコンピューティングセンターをウランチャブに設置した。その後、阿里巴巴集団(アリババグループ、Alibaba Group)、アップル(Apple)、字節跳動(バイトダンス、ByteDance)なども相次いで進出し、ウランチャブは「トークンの都」として存在感を高めている。

ウランチャブのAI産業を支えるのが電力と冷涼な気候だとすれば、中国中部の河南省(Henan)鄭州市(Zhengzhou)では、AIの舞台はデータセンターではなく撮影現場にある。中国最大級の映画・ドラマ撮影拠点として浙江省の横店が知られる一方、鄭州はショートドラマの一大制作拠点となっている。中国全体のショートドラマ制作量の約4割を占め、「ショートドラマの都」とも呼ばれる。現在、AIはその制作工程全体を大きく変えつつある。かつては1話を撮影するためにセットを組み、俳優を手配し、数日をかける必要があり、制作費も数万元に上ることが珍しくなかった。現在では脚本をアップロードすれば、AIによる絵コンテ作成から映像生成まで進めることができ、1時間ほどで作品を完成させ、1話当たりの制作費を数百元まで抑えることも可能になっている。

同じ中国中部でも、湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)のAIは生産ラインに組み込まれている。この街でAIに求められているのは「話す」ことではなく、「手を動かす」ことだ。相手にするのは展示会場でのデモンストレーションではなく、実際の工場にある部品棚や作業工程、物流の流れだ。生産ラインの速度についていけるかどうかが現場で問われる。自動車、光電子情報、ハイエンド設備などの産業では、実際に製造工程を担えるAIやロボット技術が求められている。

華東地方の江蘇省(Jiangsu)蘇州市(Suzhou)でも、工場でAIが担う役割は増え続けている。マシンビジョンや自動品質検査、生産スケジュールの最適化、設備の予知保全など、さまざまな工程でAIが活用されている。地元の精密部品工場や産業オートメーション企業、医療機器メーカーでもAIの導入が進んでいる。

湖南省(Hunan)長沙市(Changsha)と四川省(Sichuan)成都市(Chengdu)にも、それぞれ異なる特徴がある。長沙ではAIの活用が建設機械やメディア・文化産業に比較的集中しているのに対し、成都ではインターネット・ソフトウエアや電子機器分野への応用が目立つ。

AIはいわば、異なる産業の土壌に与えられる共通の「養分」のような存在だ。中国のAIはすでに研究室や大手インターネット企業だけのものではなく、さまざまな産業の現場へと入り込んでいる。

そのため、中国の「AI都市」に統一されたモデルはない。安価な電力と冷涼な気候を強みにする都市もあれば、脚本と撮影現場を生かす都市、生産ラインとロボットを軸にする都市、精密加工や機器製造を強みにする都市もある。

中国ではAIは特定の都市だけのものではなく、それぞれの地域がもともと持つ産業や資源の強みに組み込むことのできる汎用的な技術となりつつある。(c)CNS/JCM/AFPBB News