【9月28日 東方新報】伝統的な無形文化遺産の鋳造技法「失蝋法(ロストワックス製法)」と、AIが生み出すアイデアを組み合わせると何が生まれるのか。山東工商学院の学生、蔡佳楽(Cai Jiale)さん(22)は、その答えを自らの作品で示している。

蔡さんはまずAIを使って約100パターンのデザイン案を作成し、手作業で細部を仕上げる。さらに3Dプリンターで精密な原型を制作し、最後は溶かした銅を流し込んで成形する。本来は威厳ある姿で表現される中国の伝説上の瑞獣「貔貅(ひきゅう)」も、蔡さんの手によって愛嬌のある「小さな福の獣」へと生まれ変わった。

この小さな銅製の置物は市場でも人気を集めている。テクノロジーを伝統工芸に取り入れることで、Z世代の若手起業家が文化継承の新たな可能性を切り開いている。

蔡さんの芸術への関心と起業家精神の背景には、代々受け継がれてきた家業がある。出身地は福建省(Fujian)泉州市(Quanzhou)。祖先は大工の技術で生計を立て、蔡さん自身も幼いころから祖父が木工に取り組む姿を見て育った。その中で、彫刻や造形に対する感覚を自然に身につけたという。

その後、一家は工場を設立し、代々受け継いできた技術を生かして樹脂製工芸品の事業を始めた。しかしインターネットが急速に普及すると、従来の販売方法だけでは対応できなくなり、上の世代にとってオンライン販売への対応が課題となった。

当時高校生だった蔡さんは、勉強の合間を縫って家業のライブコマースを手伝うようになった。「従来の樹脂工芸品市場はすでに縮小し始めていました。売り上げを伸ばすため、家族の中で若い私がオンライン販売を主に担当するようになりました」と蔡さんは振り返る。当時から家族とともに、新たなビジネスチャンスと工芸品に使える新素材を探していたという。

樹脂製品は輸送中に破損しやすく、長期間保管すると酸化しやすいという問題があり、コレクションとしての価値も高くなかった。さらにECプラットフォームの成長が頭打ちとなる中、顧客獲得コストも年々上昇。低価格の商品だけでは利益を確保することが難しくなり、より単価が高く、耐久性のある素材を使った商品への転換が急務となっていた。

2023年9月、家業が抱えるこうした課題を意識しながら、蔡さんは山東工商学院に入学し、金融学院で投資学を専攻した。この専攻を選んだのも、経営者には統計やデータ分析、投資に関する専門知識が必要だと考えたためだった。授業では毎回最前列の中央に座り、熱心に講義を聞いてノートを取っていたという。

同大学では、起業家育成クラスや起業指導の授業、イノベーション・起業支援を担当する指導者など、学生の起業を支援する環境が整えられている。家業の将来を模索していた蔡さんにとって、こうした環境が新たな事業を考えるきっかけとなった。

大学の起業指導者から助言を受け、蔡さんが目をつけたのが、競争相手がまだ比較的少ない銅製文化・クリエーティブ商品の市場だった。そこで、家族の事業を樹脂製工芸品から銅製品へ転換することを決めた。

起業学院の教員の支援を受けてチームを結成し、2024年10月には最初の商品「威震山河」を発売。発売直後から人気を集め、事業への手応えを得た。
「この商品は貔貅をモチーフにしています。まずAIでデザイン画像を生成し、人の手で細部を修正して愛嬌のある表情にしました。その後、3Dプリンターで立体化し、家族の工場で無形文化遺産の技法である『失蝋法』を使って鋳造しました。発売すると多くの消費者に気に入ってもらい、よく売れました」と蔡さんは話す。

銅製工芸品を購入する人は、作品に込められた縁起や意味を重視することが多く、伝統的な吉祥物も人気がある。一方、蔡さんとチームは若い消費者を意識し、中国古代の地理書・神話集として知られる『山海経』に登場する「霊獣」に、かわいらしさや力強さを感じさせる表情を取り入れた。古代の神獣と現代的な中国風デザインを融合させた「山海経」シリーズは、同社の主力オリジナルIPとなっている。

2026年初め、蔡さんは泉州市銅之父工芸品有限公司の法定代表者に正式に就任し、商品デザインと市場運営を全面的に担うようになった。大学の起業指導者の支援を受け、他大学の学生も加えた起業チームを結成。電子商取引や経営管理など、異なる分野を学ぶ人材を集めた。

蔡さんが商品のアイデアと方向性を示し、チームが商品設計、ビジュアル制作、EC運営、ブランドプロモーションなどを分担している。蔡さんは、大学の起業経営に関する副専攻で学んだ市場分析やサプライチェーン管理を、伝統的な銅工芸の生産と組み合わせた。その結果、最初の5カ月だけでオンライン売上高は3000万元を突破した。

さらに、同社と徐悲鴻記念館とのIP協業を実現し、20人余りの直接雇用と200人余りの間接雇用につながった。現在、同社はオリジナルシリーズに加え、工芸美術家とのコラボ商品、観光地の建築物を再現したミニチュア、観光記念品など幅広い文化・クリエーティブ商品を生産・販売している。これまでに開発した商品は1400種類を超え、オンラインでは8店舗の旗艦店を展開。契約する販売代理店は55社に上り、中国20の省級行政区で商品を販売している。

間もなく大学4年生になる蔡さんは、会社経営と授業の合間に英語の勉強にも力を入れ、海外留学を計画している。これは別の道へ進むためではなく、銅製工芸品事業をさらに成長させるためだ。将来は海外市場を開拓し、中国の伝統文化を世界へ発信することを目指している。

「海外市場を開拓し、私たちの伝統的な神獣を世界のより多くの若者に好きになってもらいたい」と蔡さんは話している。(c)東方新報/AFPBB News