【9月15日 東方新報】このほど、香港・銅鑼湾の映画館で、スクリーンから広東語のせりふが流れた。「十回生まれ変わっても使い切れないほどのお金、欲しくない?」。軽妙な語り口と地元ならではの表現が、アニメ映画『八仙!(英題:All Wishes Come True!)』に香港らしい親しみやすさを添えている。

中国のコメディーアニメ映画『八仙!』は8月20日、香港とマカオの映画館で公開された。中国の伝統神話「八仙過海(八仙の海渡り)」を題材に、八仙が仙人になる前の「普通の人間」だった時代に焦点を当てた作品だ。庶民として生きていた8人が強大な敵を前に、知恵を駆使して立ち向かい、最後には強敵を打ち破って「八仙」として人びとからたたえられるまでを描く。

『八仙!』は中国本土ですでに18億元(約428億436万円)近い興行収入を記録している。中国本土の映画が香港やマカオで公開される際、オリジナル音声に字幕を付けるケースが多い中、同作品では制作チームがせりふを練り直し、広東語吹き替え版を制作した。香港で使われる俗語や日常的な言い回しを取り入れることで、庶民的な笑いを特徴とする物語を香港・マカオの観客にも親しみやすいものにしている。

香港の中学生、阿軒(A Xuan)さん(16)は映画館を出た後も、友人と「八仙の中で誰が一番強いのか」を議論していた。伝統的な神話は古めかしい物語だと思っていたが、テンポの速い戦いの場面や現代的なストーリー展開を見て印象が変わったという。

阿軒さんは八仙を「中国版のスーパーヒーロー」と呼びたい一方、一般的なスーパーヒーローとは全く違うとも感じている。「悩んだり、迷ったり、間違えたりする。僕たちと同じように、こだわりや弱さ、忘れられない思いを抱えた普通の人たちです」と話す。

一つの映画館、一つのスクリーンを通じて浮かび上がるのは、香港の二つの世代が持つ、それぞれ異なる神話の記憶だ。林柏(Lin Bai)さん(70)は、9歳の孫、俊仔(Jun Zai)さんが興奮しながら映画に登場する仙人たちの名前を挙げるのを聞いていた。俊仔さんは「何仙姑って、こんなにすごかったんだ」と目を輝かせる。子どもにとって八仙は、スクリーンに登場する新鮮な中国風のキャラクターだ。一方、林さんにとって八仙は、香港の一世代が共有する懐かしい記憶でもある。

「1985年に香港の亜洲電視(Asia Television)が制作したドラマ『八仙過海』は、香港で大変な人気を集めました。当時テレビで見ていた仙人たちの物語が、こんな新しい姿で映画になり、今度は孫と一緒に楽しめるとは思いませんでした」と林さんは話す。

こうした世代を超えた親しみやすさは、作品が「八仙」を現代的に描き直したことから生まれている。監督・脚本を務めた牟正洋(Mu Zhengyang)氏によると、伝統的な八仙は、男女や老若、富裕層から庶民まで、社会のさまざまな人々を象徴しており、その根底には常に普通の人びとに寄り添う精神があるという。作品では素朴な善意と信念を軸に、軽快な物語を通じて前向きな価値観を伝えることを目指した。

制作会社、東方夢工廠(Pearl Studio)の応旭珺(Ying Xujun)総裁兼エグゼクティブプロデューサーは、八仙の物語は香港・マカオで古くから広く親しまれており、広東語版を制作したのは、地元の観客がより物語に入り込めるようにするためだと説明する。親しみやすい映像作品を通じて、若い世代に伝統的な物語を改めて知ってもらいたいとしている。

上映が終わり、人びとが少しずつ映画館を後にする中、林さんは記憶に残る昔のメロディーを口ずさんでいた。その隣では、孫の俊仔さんがスマートフォンで「韓湘子の笛の音」を検索していた。

40年以上前、亜洲電視版『八仙過海』は香港の多くの家庭で親しまれた。そして40年以上を経た今、映画『八仙!』が祖父と孫を同じ映画館へと呼び寄せた。祖父が語るのはかつてのテレビドラマの思い出、孫が語るのは現代の「仙人たちの世界」。世代は違っても、そこにいるのは同じ八仙であり、それぞれが得意の力を発揮する同じ物語だ。(c)東方新報/AFPBB News