【9月13日 東方新報】布や端切れは、どこまで楽しめるのか。中国では最近、アイロンビーズに続いて「パッチワーク」が若者の新たな人気を集めている。SNSでは関連する話題への関心が高まり続け、動画投稿アプリ「抖音(Douyin)」での関連動画の再生回数は6億回を超えている。

「パッチワーク」は、色や素材の異なる布を縫い合わせ、バッグや壁飾り、カーテン、ペット用の服などを作る手芸だ。実用品だけでなく、端切れを組み合わせてフルーツプリンやバースデーケーキ、猫をモチーフにしたハンバーガーなど、ユニークな図柄を作り、トートバッグを飾る若者もいる。

見本通りに作ることが多いアイロンビーズとは異なり、パッチワークは「正解のない自由な創作」に近い。愛好者からは「絵画や刺しゅう、裁縫など、さまざまな趣味の要素が詰まっていて、自由度が高く、より楽しめる」といった声が上がる。また、「美的センスと根気、アイデアを競うようなもので、一人ひとり全く違う作品ができる」と話す人もいる。

高度な美術の技術がなくても気軽に始められることから若者を夢中にさせ、「週末、暇なら気の合う人とパッチワークを楽しむ」という新たな交流スタイルにもなっている。こうした手芸ブームはデータにも表れている。最新の統計によると、8月に入ってからECサイトではパッチワーク用材料セットの販売が大きく伸び、複数の初心者向けセットが月間販売数1万点を突破した。中国各地では裁縫の手作り工房や、自由にミシンを使える「裁縫自習室」も相次いで登場している。利用者はミシンの使い方を教わり、好きな布を選んで自由に作品を作ることができる。

浙江省(Zhejiang)杭州市(Hangzhou)にある裁縫スタジオは最近、人気の手作り体験スペースへと転換した。アイロンビーズの楽しみ方を参考に、初心者でも気軽に楽しめるパッチワーク体験を導入し、豊富なテンプレートを用意して自由に作品を作れるようにしている。

一方、貴州省(Guizhou)貴陽市(Guiyang)の総合手芸店では、ナチュラル、レトロ、カントリーなどさまざまなテイストの布と装飾材料一式を提供。サービス開始直後から人気を集め、その後追加したパッチワークのカードケースやノート、ヘアクリップなども好調な売れ行きを見せている。

パッチワークそのものは新しいものではない。中国では古代の礼制について記した『周礼』に、キジの羽を切って衣服に貼り付ける装飾に関する記述があり、古くから布などを切り貼りする技法が服飾に取り入れられていたことが分かる。

日本でもパッチワークは長く親しまれてきた。1970~80年代に絶大な人気を誇った山口百恵(Momoe Yamaguchi)さんは、俳優の三浦友和(Tomokazu Miura)さんとの結婚を機に芸能界を引退した後、パッチワークを日々の趣味としてきた。2019年には「三浦百惠(Momoe Miura)」の名で作品集『時間(とき)の花束 Bouquet du temps』を出版。30年以上にわたって制作した約70点の作品を収録し、夫や息子のために作った作品など、家族への思いが込められている。山口さんは同書で、手仕事をする時間を持てる現在の暮らしを「とても幸せなこと」とつづっている。

日本では毎年、さまざまなパッチワーク・キルト展が開かれ、斉藤謠子(Yoko Saito)さん、若山雅子(Masako Wakayama)さん、小関鈴子(Suzuko Koseki)さんら著名なキルト作家の作品が多くの人を引きつけている。展覧会を訪れた人からはSNSで「最初から最後まで感嘆の連続だった。リボンや小動物など、細部にまで繊細な工夫が凝らされていた」といった声も上がっている。

このうち小関鈴子さんは中国でパッチワークの交流イベントに参加したこともあり、その作品は中国の若者からも人気を集めている。小関さんは、美しいパッチワークで日々の暮らしを彩ることは「パッチワークの日記」のようなもので、そこから暮らしへの思いを感じ取ることができると考えている。

日本でも多くのクリエーターがSNSでパッチワーク作品を紹介している。イラストレーターのNATSUMI MATSUOKAさんや、ハンドメイド作品を発信するosetsuさんが制作するパッチワークの小物入れは、日本と中国のSNSで人気を集め、両国のネットユーザーを楽しませている。

なぜ小さな布切れがこれほど人を引きつけるのか。SNSの投稿を見ると、「環境に優しい」「ストレス解消」「かわいい」といった言葉が多く挙げられている。中国伝媒大学(Communication University Of China)文化産業管理学院の卜希霆(Bu Xiting)副研究員は、パッチワークが現代の都市生活者の心理的なニーズに応えていると指摘する。生活のテンポが速まる中、頭をいったん強制的に「オフライン」にする時間が必要になっているという。

布を切り、縫い、組み合わせる作業は、手を動かすことに集中する「フロー体験」でもある。手を動かしている間、心が落ち着く。また、パッチワークには美的センスが求められる一方、一人ひとりの創造性を発揮しやすい。

さらに、持続可能な消費という潮流にも合っている。古着や余った布を再利用して廃棄を減らすことは、単なる宣伝文句ではなく、現代の若者にとって実際の価値観に基づく選択になりつつある。そして、交流と自己表現という二つのニーズも満たし、パッチワークは単なる手芸から一つのライフスタイルへと広がっている。

経済学の観点から、パッチワークがもたらす感情的な満足感や個性を表現する価値は、画一的な商品では得にくい価値を補っているとの分析もある。経済学には「IKEA効果」と呼ばれる心理効果がある。自分で組み立てたり作ったりしたものに対して、実際以上に高い価値を感じやすくなる現象だ。パッチワークも、自ら布を切って縫うという手間をかけることで作品への愛着が増し、「自分で作ったものは、多少不格好でもだんだん気に入ってくる」という感覚につながる。

アイロンビーズからパッチワークへ。AIがあらゆる分野に浸透する時代だからこそ、自分の手を動かして何かを作ることが、若者の心を満たす消費の一つになっている。小さな布をつなぎ合わせて自分だけの世界を作ることは、日々の暮らしを大切に楽しむ一つの方法なのかもしれない。(c)東方新報/AFPBB News