【9月10日 東方新報】前進し、跳び上がり、槌を振る――。広東省(Guangdong)東部の潮汕(Chaozhou)地方に伝わる勇壮な民間舞踊「英歌舞」の槌の音が舞台に響く。新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)バインゴリン・モンゴル自治州(Bayingolin Mongol Autonomous Prefecture)出身のウイグル族ダンサー、イリファン・ウマルさんが演じるのは、潮汕地方の少年・陳心遠(Chen Xinyuan)だ。幻想の世界に入り込んだ少年は、かつて中国南部から東南アジアへ渡ったまま消息を絶った父親の足跡を追っていく。

中国第7回全国少数民族文芸公演の上演作品となった大型民族舞踊劇『英歌』が8月19、20日、北京市の天橋劇場で上演された。作品の題材となった英歌舞は、武術の要素を取り入れ、踊り手が両手に持った槌を打ち鳴らしながら集団で踊る潮汕地方の伝統芸能だ。同作は英歌舞をはじめとする無形文化遺産の要素と現代的な舞台表現を融合し、かつて中国南部から東南アジアへ渡った人々の歴史を背景に、国内外の華人が支え合い、苦難を乗り越えた時代を描いている。

広州歌舞劇院のダンサー、イリファンさんは主役を務め、力強さとしなやかさを兼ね備えた踊りで、迷いや模索を経て成長していく少年を演じた。「幻想の中で、陳心遠は東南アジアへ渡った華僑の先人たちが歩んだ歴史を目にします。彼らは抗日戦争を支援し、家族よりも国を優先して身を投じた、あの時代の名もなき英雄でした」。イリファンさんは、踊りを通じてその精神を観客に伝えたいと話す。

英歌舞は数百年にわたって受け継がれてきた伝統芸能で、民俗儀礼や武術などの要素を取り入れた、力強く勇壮な踊りを特徴とする。近年はSNSなどを通じて中国各地で知られるようになり、若者からも注目を集めている。

イリファンさんは英歌舞特有の力強い動きを身につけるため、国家級無形文化遺産の代表的伝承者から足運びや槌の扱い方、隊形、身体の使い方などを学んだ。その上で、舞踊劇としての表現に合わせて現代舞踊の要素も取り入れている。

新疆で生まれ、天山山脈の麓で育ったイリファンさんは、自らの芸術の道を「旅を続けながら、根を下ろしていくこと」と表現する。少年時代に故郷を離れて北京で舞踊を学んだ。自由で寛容な家庭環境の中で育ち、両親から背中を押されながら、踊りへの思いを持ち続けてきたという。「子どもの頃から体を動かすことが好きで、踊っている時はとても自信がありました。両親からは『他人と同じ道を無理に歩く必要はない。自分が好きな道を歩けばいい』と言われていました」と振り返る。

2017年に広州歌舞劇院に入団して以来、イリファンさんは広東を中心とする中国南部・嶺南地方の文化を題材とした舞踊劇に数多く出演してきた。広東の伝統的な獅子舞を題材にした『醒・獅』で頭角を現し、ドラゴンボート文化を描いた『龍・舟』で新たな表現に挑戦。今回の『英歌』でも高い評価を得ている。けがにも向き合いながら各地で公演を重ね、ダンサーとして成長してきた。広州で長く暮らすうちに、イリファンさんはこの街での生活にもすっかりなじんだ。「広州は冬もそれほど寒くなく、国際的で、とても包容力のある街です。とても気に入っています」と話す。

創作活動の合間には新疆料理店を訪れ、故郷の味を楽しむこともある。新疆とは異なる食文化や暮らしに触れる中で、さまざまな文化を受け入れてきた嶺南地方の開放的な気風を次第に理解するようになったという。

今後は、出演するだけでなく、創作や発信、異なる文化を融合した作品づくりにも活動を広げたいとしている。人びとの共感を呼び、文化的な厚みを持つオリジナル作品を生み出し、踊りを単なる技術表現にとどめず、作品に込められた精神や時代の空気まで伝えていきたいという。

新疆の天山から広東の嶺南へ。イリファンは踊りを通じて異なる地域の文化に触れ、その融合に取り組んできた。将来は、広東の英歌舞と新疆の民族舞踊「木勺舞」を組み合わせた作品にも挑戦したいという。中国南部と北西部、それぞれに伝わる特色の異なる民間舞踊を融合させ、中国文化の多様性を表現する新たな舞台作品を生み出したいとしている。(c)東方新報/AFPBB News