【9月4日 CNS】草間彌生(Yayoi Kusama)氏の死去が伝えられると、中国では多くの人びとが追悼の意を表し、その歩みを振り返った。世界的に知られる日本の前衛芸術家である草間氏は、中国でも非常に高い知名度を誇り、代表的な水玉模様やカボチャ、「無限の鏡の間」は広く知られるアートの象徴となっている。上海市の外灘(バンド、Bund)では、水玉模様に覆われたルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)の旗艦店の外壁の前で足を止め、色鮮やかなカボチャのオブジェと記念撮影する人びとの姿が見られた。また、中国のティーブランド「喜茶(HEYTEA)」では、黒いタピオカをあしらった草間氏とのコラボレーションドリンクを楽しむ人もいた。

草間氏と中国との縁は、約20年前にさかのぼる。2007年、78歳だった草間氏の作品が北京市の798芸術区で開催された「美麗新世界:当代日本視覚文化展」に出展され、中国で広く知られるきっかけとなった。同年には上海市の春季サロンに参加したほか、香港や広州市(Guangzhou)などでも展覧会が開かれた。

大きな転機となったのは2013年だった。この年、中国で初となる草間氏の大規模個展「草間彌生――わが永遠の魂」が上海当代芸術館(MOCA Shanghai)で開幕した。100点を超える作品が展示され、約60年にわたる創作の歩みが紹介された。同展は延べ30万人を動員し、入場料収入は約1500万元に達する記録的な人気を集め、同館の開館以来8年間で最も人気の高い展覧会となった。当時、草間氏は84歳だった。

その後、中国での草間氏の影響力はさらに広がった。2019年3月には上海で個展「草間彌生:愛はとこしえ」が開催された。カボチャや水玉模様、「無限の鏡の間」などに加え、会場の空間に合わせて制作された大型の没入型・多重反射型インスタレーションも展示された。

やがて草間氏の作品は美術館を飛び出し、中国の公共空間、さらには日常の消費文化にも浸透していった。2023年には上海のLV旗艦店に草間氏を模したロボットや、水玉模様を取り入れたアート作品「ダンシングパンプキン」が登場した。2024年には、水玉模様と鮮やかな黄色を特徴とする高さ10メートルの巨大なカボチャの彫刻が上海・北外灘に設置され、新たなランドマークとなった。同年11月には、中国のティーブランド「喜茶」が草間氏とのコラボレーションを発表。「世界にもっと『水玉』を」をテーマに7種類のドリンクを発売し、中国のSNSでも大きな話題となった。

草間氏が晩年にこれほど大きな社会的影響力を獲得したことについて、さまざまな分析がなされている。その理由の一つとして挙げられるのが、極めて特徴的な視覚表現によって大衆文化に浸透し、SNSで拡散されやすいアートとなったことだ。鮮やかな色彩のコントラストを生かした水玉模様や、果てしなく繰り返される網目模様など、ひと目で草間氏の作品だと分かる独自性が、その商業的な成功を支えた。

一方、商業的価値を超えて、草間氏が残した芸術は今も多くの中国の芸術関係者や愛好家に影響を与えている。「永遠の愛」「魂」「無限」は一貫した創作テーマであり、「反復」「拡張」「無限」がその芸術の核心を形作ってきた。

果てしない世界と向き合うことは、本来、恐怖をもたらす。しかし、同じイメージを繰り返し、広げ、空間全体を覆い尽くすことで、恐怖だけでなく自己そのものも、その無限の広がりの中へ溶けていく。そこには宇宙とつながるような哲学があるとの見方もある。視野を無限へと広げれば、人間もまた無限に増殖する水玉のように、広大な空間に浮かぶ一粒の存在となる。

草間氏はかつて、「子どもの頃から中国の詩や文学に深い敬意を抱いており、そのため中国にはずっと親しみを感じてきた」と公に語っている。こうした思いも、中国の人びとと草間氏の芸術を結ぶ架け橋となった。草間氏の展覧会を鑑賞した中国人からは、その作品に、広大な天地や大海原の中で人間の存在の小ささを見つめる中国古典の哲学に通じるものを感じたとの声も聞かれた。

草間氏の死去を受け、かつて本人を取材した上海大学美術学院の潘力(Pan Lu)教授は、次のように振り返った。「私が受けた印象は、自分自身の芸術の世界に完全に没頭し、外の世界のことにはほとんど動じない人だということでした。取材でも、自らの波乱に富んだ人生についてあえて語ることはなく、ただ静かに作品や、今取り組んでいることについて話していました。今振り返ると、彼女が本当に関心を持ち続けていたのは、自分自身の芸術だけだったように思います。その静けさと超然とした姿が最も印象に残っています」。(c)CNS/JCM/AFPBB News