【三里河中国経済観察】中欧「北極高速航路」が変える世界の海運
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【9月2日 CNS】話は昨年秋にさかのぼる。
2025年9月23日未明、寧波舟山港から貨物船「イスタンブール・ブリッジ」が出航した。20日後、同船は英国のフェリックストー港に到着。世界初となる中国―欧州間の北極海コンテナ高速航路が実現した。
昨年秋が試験運航だったとすれば、今年秋からは定期運航の段階に入る。中国のコンテナ海運会社、海傑航運(Sea Legend Shipping)はこのほど、北極海を通過する初の定期コンテナ航路を開設すると発表した。8月15日に初便が出航し、週1便の運航で計8便を予定している。
これは、中国と欧州を結ぶ新たな北極海航路が本格的に運用され始めることを意味する。なぜ、北極海を通る新たな航路が必要なのか。従来、寧波舟山港からスエズ運河を経由して欧州へ向かう場合、少なくとも40日程度を要する。混雑や国際情勢の影響を受ければ、40~50日程度かかることも珍しくない。紅海情勢の影響で喜望峰を迂回する場合は、50日以上かかることもある。
これに対し、中国―欧州北極高速航路はベーリング海峡を通過し、北極海航路を西へ進む。英国のフェリックストー港まで18~20日程度で到着し、そこからドイツ、オランダ、ポーランドなど欧州各地の港へと貨物を運ぶことができる。
輸送日数が従来航路の半分程度になることで、時間とコストの両面でメリットが生まれる。中国企業にとっては、商品をより早く欧州市場へ届けられるため、在庫期間の短縮や資金回収の迅速化につながる。
公開情報によると、輸送時間の短縮によって企業の在庫量を約40%削減でき、在庫に伴う資金負担の軽減も期待できるという。また、北極海航路は気温が低いため、精密機器や新エネルギー車向けバッテリーなど、温度管理が重要な高付加価値貨物の輸送にも適しているとされる。こうした貨物の温度管理にかかるコストを抑えられるほか、二酸化炭素排出量も従来航路と比べて半分近く削減できるという。
さらに重要なのが、従来航路が抱える地政学的なリスクを分散できる点だ。近年は紅海情勢の緊張が続き、地政学的な対立や運河の混雑、海賊などが国際物流のリスクとなっている。船会社が喜望峰経由への迂回を余儀なくされれば、輸送日数や運賃にも大きな影響が及ぶ。
北極海航路はマラッカ海峡を通らず、紅海やアデン湾も経由しない。このため、従来航路とは異なるルートを確保することで、物流上のリスクを分散できる。一方、この航路にも課題はある。最大の問題は季節による制約だ。海氷の影響から航行できるのは毎年7月下旬から10月ごろまでに限られ、現時点では年間を通じた運航は難しい。また、航路沿いでは船舶への補給や緊急救助などのインフラも限られており、運航には高い技術と対応能力が求められる。
そのため、短期的に北極海航路がスエズ運河経由の従来航路に完全に取って代わる可能性は低い。しかし、長期的な物流戦略という点では大きな意味を持つ。これまでアジアと欧州を結ぶ海上貿易ルートは、南側の航路に大きく依存してきた。輸送ルートが限られていれば、それだけリスクも集中する。近年は「中欧班列」によって陸上輸送ルートが整備され、さらに北極海を通る季節限定の海上ルートが加わることで、中国と欧州を結ぶ物流網の選択肢が増えることになる。
航行距離と輸送時間を短縮し、ルートを多様化することは、サプライチェーンの安定性向上にもつながる。中国にとっては、国際物流の変化に対応するだけでなく、新たな輸送ルートを構築する動きでもある。イタリア紙「イル・ソーレ24オーレ(Il Sole 24 Ore)」は、この航路について「東西を結んできた古くからの貿易関係を新たな形でつなぐもの」と評価している。
かつてユーラシア大陸を陸路で結んだシルクロードに加え、現在は北極海を経由する新たな海上輸送ルートが形成されつつある。北極海航路は今のところ季節限定だが、中国と欧州を結ぶ物流ルートの多様化という点で象徴的な動きとなっている。従来の南側航路に加えて北側にも選択肢を持つことで、国際情勢や物流環境の変化に対応しやすい輸送体制の構築につながると期待されている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News