【9月3日 CNS】中国本土の株式市場(A株)に、新たな時価総額首位の企業が誕生した。

7月27日、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)メーカーの長鑫科技(CXMT)がA株市場に上場した。初値は公開価格を471.59%上回る49.5元(約1168円)を付け、時価総額は3兆3100億元(約78兆1570億円)に達した。中国工商銀行(ICBC)を抜き、A株市場で時価総額首位となった。

27日の終値では公開価格比465.82%高となり、売買代金は1411億8700万元(約3兆3337億円)、時価総額は3兆2800億元(約77兆4486億円)だった。これは米インテルの7月24日終値時点の時価総額4656億ドル(約74兆1607億円)を上回り、貴州茅台酒(Kweichow Moutai)の27日終値時点の時価総額1兆6100億元(約38兆159億円)のおよそ2倍に相当する。

長鑫科技の公開価格は1株8.66元(約204円)で、新規株式公開(IPO)による当初の調達額は約579億元(約1兆3671億円)となった。中芯国際集成電路製造(SMIC)の532億元(約1兆2561億円)を上回り、上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板」では過去最大のIPOとなった。

A株市場の歴代IPO調達額を見ると、上位4社は中国農業銀行(Agricultural Bank of China)、中国石油天然気(ペトロチャイナ、PetroChina)、中国神華能源(China Shenhua Energy)、中国建設銀行(China Construction Bank)で、長鑫科技は5位に入った。一方、同社には実質的な支配株主が存在しない。この特徴的な株主構成は、中国半導体産業における資本形成の一つのモデルを映し出している。

世界の半導体産業では、国や地域によって資金調達や投資の仕組みが異なる。米国ではナスダックを中心とする資本市場がエヌビディア(Nvidia)などの企業価値を評価し、韓国では財閥と政府の支援を背景に、サムスン電子(Samsung Electronics)やSKハイニックス(SK Hynix)が大規模な投資を進めている。

長鑫科技は、これらとは異なる形で成長してきた。まず背景にあるのが、資本市場の制度改革だ。中国の第15次5か年計画(2026~2030年)では、高水準の科学技術の自立・強化を加速させ、「新質生産力」と呼ばれる新たな成長力の発展をけん引する方針が重要政策として位置付けられている。

中国証券監督管理委員会は2025年、科創板の改革をさらに進める「1+6」の政策措置を打ち出した。成長段階にあるハイテク企業を対象とした区分を設けたほか、赤字企業が一定の条件で上場できる制度を再開。優良なテクノロジー企業を対象とするIPOの事前審査制度も試験的に導入した。

長鑫科技は、こうした新制度を活用した代表的な企業だ。科創板で初めてIPOの「事前審査」制度を利用し、申請受理から登録まで6か月未満で手続きを終えた。同社はかつて赤字に陥っていたが、新制度によって、技術力を持ちながら財務面では成長途上にあるハイテク企業にも上場への道が広がった。

こうした事例は長鑫科技だけではない。改革実施から1年間で科創板が新たに申請を受理した企業は59社に上り、そのうち約4割が赤字企業だった。GPU開発の摩爾線程(Moore Threads)や沐曦(MetaX)なども注目を集めており、資本市場では短期的な業績だけでなく、長期的な技術力や成長性を評価する動きが強まっている。

長鑫科技の成長を支えてきたもう一つの要素が、公的資本だ。上場前の株主構成では、合肥市の国有資本による持ち株比率が合計35%を超えていた。また、国家集成回路産業投資基金二期(通称「国家大基金二期」)が8.73%、安徽省投資集団が7.91%を保有していた。国有資本が長期的な視点から資金を供給してきたことが、同社の成長を支える重要な要素となった。

これにより、合肥市にとっても長鑫科技の存在感は大きくなっている。上場初日の時価総額3兆3100億元(約78兆1570億円)を基に単純計算すると、合肥市の国有資本が保有する長鑫科技株の評価額は1兆1600億元を超える。これは同市の2025年のGDP1兆4200億元(約33兆5296億円)に迫る規模となる。

戦略的配当にも長期投資家が多数参加した。全国社会保障基金理事会傘下の30以上の運用ポートフォリオが株式の割り当てを受けたほか、国レベルの基金や大手保険会社なども参加した。さらに特徴的なのが、半導体のサプライチェーンを構成する企業との資本面での連携だ。長鑫科技の戦略的配当には、上流側から澜起科技(Montage Technology)、中微公司(AMEC)、拓荆科技(Piotech)などの半導体関連企業が参加した。下流側では、EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)や奇瑞汽車(Chery Automobile)、阿里雲智能(アリババ・クラウド、Alibaba Cloud)、小米科技(シャオミ、Xiaomi)、美団(Meituan)、騰訊(テンセント、Tencent)などが名を連ねている。

上流企業が製造装置などを供給し、下流企業が半導体を利用する。こうした企業が資本面でも結び付くことで、中国のメモリー半導体産業全体で連携を強める形となっている。長鑫科技を取り巻く動きは、1社や1都市だけにとどまらない。中国の集積回路産業では、長江経済ベルトを中心とした産業集積が形成されており、沿岸11省・直轄市の産業規模は全国の70%以上を占める。上海市は幅広いサプライチェーン、江蘇省は半導体のパッケージング・テスト、安徽省(Anhui)は製造、浙江省(Zhejiang)は設計など、それぞれに強みを持つ。

長鑫科技はIPOで調達した資金を、量産ラインの技術高度化、DRAM技術の向上、次世代技術の研究開発などに充てる方針だ。同社は海外大手を単に追随するのではなく、次世代技術の開発を通じて競争力を高めることを目指している。ただし、株式市場からの高い評価が、そのまま将来の成長を保証するわけではない。

調査会社オムディア(Omdia)によると、世界のDRAM市場ではサムスン電子、SKハイニックス、米マイクロンテクノロジー(Micron Technology)の3社が合計90%以上のシェアを占めている。数十年かけて築かれた大手3社の優位性は大きい。長鑫科技は約10年間で世界4位の位置まで成長したとされるが、上位3社との差を縮めるハードルはさらに高くなる。

長鑫科技の上場は、中国の半導体産業における資金調達の新たな事例となった。国有資本による長期投資、サプライチェーン企業との連携、資本市場改革が組み合わされた形だ。
一方、上場はあくまで出発点にすぎない。今回調達した巨額の資金を研究開発や技術革新につなげ、世界のDRAM市場で持続的な競争力を築けるかが、今後の焦点となる。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News