【三里河中国経済観察】多国籍企業、中国に生産回帰の動き
このニュースをシェア
【9月2日 CNS】トランプ政権が中国との「デカップリング(切り離し)」を掲げてから1年以上が経過する中、一部のグローバル企業では中国に生産を戻す動きがみられている。
米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)はこのほど、米国が中国に「相互関税」を導入してから1年余りが経過し、東南アジアなどに生産拠点を移した多国籍企業の一部が、サプライチェーンを再び中国に戻していると報じた。
米テキサス州に本社を置く懐中電灯メーカーのACGもその一つだ。2025年に米国の対中関税が大幅に引き上げられた際、ACGは東南アジアでの生産体制構築に多額の資金を投入した。しかし、タイやベトナムなどの工場で設備の調達や必要な認証を終えた後も、中国のサプライチェーンを完全に代替することは難しいことが分かったという。
ACGのグローバル最高執行責任者(COO)、フィル・ラスト氏によると、中国企業がアマゾン(Amazon.com)で販売する懐中電灯の価格が、ACGがタイから米国へ製品を輸送する際の送料を下回るケースさえあるという。
ACGの事例は、中国から生産を移転する際に企業が直面するコストや供給網の課題を示している。その一つが、中国のサプライチェーンの充実度と調達の速さだ。例えば懐中電灯産業では、浙江省寧海県の西店鎮に世界の約60%の生産が集中している。数百社のメーカーが集積し、LED、回路基板、スイッチなどの部品を地域内で調達できる環境が整っている。
中国は国際連合(UN)の産業分類にあるすべての工業分野を有する国とされ、世界の主要工業製品504品目のうち、220品目以上で生産量が世界首位となっている。産業集積による効率性やコスト面のメリットもある。長江デルタ地域では、蘇州でスマート芝刈りロボット1台を製造するのに必要な300点以上の部品のうち、半数を車で約1時間以内の地域から調達できる。福建省(Fujian)晋江市(Jinjiang)の靴・アパレル産業集積地でも、生地や靴底、靴ひもなど、靴の生産に必要な部材を周辺地域でそろえることができる。
物流インフラも企業が中国で生産を続ける理由の一つとなっている。世界の貨物取扱量上位10港のうち8港を中国の港湾が占めているほか、中国と欧州を結ぶ「中欧班列」や鉄道・海上輸送を組み合わせたネットワークなどが物流を支えている。
ラスト氏によると、寧波舟山港に近く、低コストの海上輸送を利用できる西店鎮と比べ、ACGのタイ工場周辺では関連インフラが十分ではなく、工場から港まで製品を運ぶコストも高いという。
行政手続きや事業環境も要因として挙げられている。今年6月、福建省漳州市(Zhangzhou)では、単一設備として世界最大規模の生産能力を持つエチレン設備を含む中国・サウジアラビア古雷エチレンプロジェクトが中間引き渡しを終えた。
サウジ基礎産業公社(SABIC)のファイサル・アルファキール(Faisal Mohammed Al-Faqeer)最高経営責任者(CEO)は、プロジェクトの規模と建設スピードを評価した上で、中国の各級政府による調整や審査・認可、日常的な課題への対応がプロジェクトを支えたとの見方を示した。
ACGの試算では、関税を考慮しない場合、東南アジアから製品を出荷するコストは中国より12~15%高くなる。このため、同社は現在、中国以外でも製品の4分の3以上を生産できる体制を整えているものの、全体の3分の2の生産能力を引き続き中国に置いている。
電力供給の安定性も製造業にとって重要な要素だ。ニューヨーク・タイムズは、ホルムズ海峡をめぐる緊張による燃料不足がベトナムなどの工場に影響を与え、米国ブランドの調達担当者の間で中国からの調達を増やす動きにつながっていると報じている。
アジア太平洋地域のコンサルティング会社を率いるスティーブ・オーケン(Steve Okun)氏は、企業が他地域にも生産能力を整備したことで、改めて中国の優位性が認識されていると指摘する。一方で、中国への依存度を高めることはサプライチェーンの集中リスクにもつながる。
米国のシンクタンク、ケイトー研究所(Cato Institute)も、関税だけでなく、生産、輸送、規制対応などのコストを総合的に考慮すると、中国がグローバルサプライチェーンで持つ競争力は依然として高いと指摘している。
中国側の統計によると、2025年に中国で新たに設立された外資系企業は前年比19.1%増加した。2026年上半期には、約4800社の外資系企業が中国で追加投資を行った。
米国による対中関税の引き上げやサプライチェーンの分散を背景に、企業は中国以外の地域での生産を模索してきた。一方、実際に拠点を移す過程では、部品調達、物流、インフラ、生産コストなどさまざまな課題も浮上している。
中国で長年形成されてきた幅広い製造業の集積や物流・インフラ網を短期間で他地域に移すことは容易ではない。企業にとっては、地政学的なリスクへの対応と、コストや生産効率をどう両立させるかが引き続き課題となっている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News