【8月19日 東方新報】中国・雲南省(Yunnan)楚雄イ族自治州(Chuxiong Yi Autonomous Prefecture)の「楚雄彝繍(楚雄イ族刺繍)」が、世界知的所有権機関(WIPO)の方式審査を通過し、国際商標登録証明書が交付された。「楚雄イ族刺繍」は、中国初となる無形文化遺産の服飾分野の地域共同商標である。これにより、欧州連合(EU)加盟27か国のほか、日本、韓国、米国などでも商標が保護され、海外展開を後押しする。

7月31日には、「イ族の伝統モチーフが日常のファッションに溶け込む」という話題が中国のSNSでトレンド入りし、8月4日までの累計閲覧数は2429万回を超えた。楚雄イ族刺繍は約1800年の歴史を持ち、2014年には楚雄彝族の伝統衣装が中国の国家級無形文化遺産に登録された。最大の特徴は、鮮やかで力強い色彩にある。「黒は高貴」「赤は吉祥」「黄は美しさ」を象徴する大胆な配色は、中国のネット上で「視覚的ドーパミン」とも呼ばれている。

馬纓花(ネムノキ)の文様や火文、虎文、太陽文などには、愛情や魔除け、力、希望といった意味が込められている。また、「挑花」「鎖辺」「打籽」「盤金」など多彩な技法が受け継がれ、一針一針に彝族の歴史や文化が刻まれている。

伝統的な楚雄イ族刺繍は、民族衣装や頭巾、背負い帯などの生活用品に用いられてきた。こうした伝統美は海外でも評価されており、省級無形文化遺産の代表的継承者・丁蘭英(Ding Lanying)氏が運営する工房には、日本やフランス、ベトナムなどから注文が寄せられている。海外のバイヤーから「伝統的なデザインをそのまま残してほしい」と求められることもあるという。

一方、伝統を生かした新たなデザインも生まれている。丁氏の娘・陳海燕(Chen Haiyan)氏は、色彩を落ち着かせたデザインや敦煌文化との融合などを取り入れ、若い世代からも支持を集めた。

楚雄イ族刺繍は近年、国際的なファッションの舞台でも紹介されている。ミラノやパリのファッションウィークへの出展を経て、2025年には国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の「無形文化遺産とファッションデザイン」の世界モデルケースに選定され、2025年大阪・関西万博の中国パビリオンでも披露された。

活用分野はファッション以外にも広がっている。楚雄イ族自治州南華県では、茶葉と刺繍を組み合わせた茶箱などの商品が開発された。また、「七彩イ族刺繍」がデザインしたユニフォームやキャップ、トートバッグなど11シリーズ30商品が国際サッカー連盟(FIFA)の審査を通過し、W杯関連商品の初回注文を受けた。

刺繍産業の発展は、地域の雇用にもつながっている。楚雄イ族自治州では刺繍工房の整備や受注体制の構築を進め、約6万2000人の刺繍職人が地元で働いている。そのうち2000人以上が障害のある女性で、刺繍職人の平均月収は400元(約9327円)未満から3860元(約9万11円)へと増加した。

聴覚障害のある普桂(Pu Gui)さんは、祖母と母から刺繍を学び続け、2022年に「刺繍工(手刺繍)」二級技能資格を取得した。現在は武定県で唯一の二級手刺繍技師として、後進の育成にも携わっている。

また、元新聞記者の張建勲(Zhang Jianxun)氏は、自ら刺繍を学んで販売プラットフォームを立ち上げ、村の刺繍職人と市場を結び付けた。その活動を通じて70人以上の女性が刺繍産業に参加し、農作業や家事、育児の合間に自宅で収入を得ている。1人当たりの年間増収額は6000元(約13万9914円)から4万元(約93万2764円)に達するという。

楚雄イ族刺繍が国内外で支持される背景には、鮮やかな色彩や高度な技法だけでなく、地域の暮らしとともに受け継がれてきた生命力がある。(c)東方新報/AFPBB News