【三里河中国経済観察】低空経済、暮らしを支える新たなインフラへ
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【7月14日 CNS】かつては険しい山道を3時間かけて配達していた郵便が、今では約15分で村の配達拠点に届くようになった。これはSF映画の話ではない。中国・雲南省(Yunnan)紅河ハニ族イ族自治州(Honghe Hani and Yi Autonomous Prefecture)緑春県の山間部で実際に始まっている取り組みだ。
ベトナムと国境を接する緑春県半坡郷では、標高320メートルの壩溜社区から1773メートルの高井槽村まで続く郵便ルートは、急勾配で狭く、雨林には毒蛇やヒルも生息している。これまで郵便配達員はバイクで山道を走り、郵便物や新聞を届けてきた。
現在は「空の郵便配達」が導入され、ドローンが設定されたルートを飛行し、土砂崩れによる通行止めの影響を受けることなく、新聞や大学の合格通知、荷物などを時間どおりに届けている。
現地の配達員、李学文(Li Xuewen)さんは「負担が軽くなり、安全性も効率も大きく向上した。以前はバイクで約3時間かかり、雨季には土砂崩れで配達できないこともあった。今では営業所でドローンを操作するだけで郵便を届けられる」と話す。
これまでに半坡郷では300回以上のドローン飛行を実施し、総飛行距離は2500キロを超え、300件以上の郵便物や荷物を配送してきた。こうした「日常生活に溶け込む」新たな活用例は特別なものではない。低空経済が構想段階から実用段階へ移りつつあることを示す一例だ。
深セン市(Shenzhen)では、ドローンが自動体外式除細動器(AED)を約4分で現場へ届ける「空飛ぶ救急隊」として活躍している。上海市では交通事故現場へ約2分で到着し、空撮による現場確認を行うことで、保険手続きの迅速化にも役立っている。
中国国家発展改革委員会がこのほど公表した低空経済の代表的な活用事例でも、物流、医療、都市管理、農林業、測量・点検など幅広い分野で実用化が進んでいることが示された。低空経済はもはや構想ではなく、人びとの暮らしを支える存在になりつつある。
こうした発展は、産業基盤の整備やインフラの拡充、政策支援の積み重ねによって実現したものだ。2025年末時点で、中国に登録されたドローンは328万7000機に達し、前年末比51.0%増加した。年間飛行時間は4530万2900時間で69.89%増となり、全国には46カ所の低空飛行サービス拠点が設置され、23の省・自治区・直轄市をカバーしている。
こうした数字は、民生分野を支える技術や運用能力が着実に向上していることを示している。インフラ整備の進展により、物流、観光、電子商取引など関連産業ではコスト削減や新たなビジネスモデルの創出が進み、産業全体の発展を後押ししている。
国研新経済研究院の朱克力(Zhu Keli)院長は、「低空経済の基盤となるのは『空の新インフラ』だ。これは単なる一産業の技術革新ではなく、都市を平面的な構造から立体的な空間へと発展させる新たなインフラである」と指摘する。
2026年2月には、中国工業・情報化部や国家発展改革委員会など5部門が、2027年までに全国の低空公共飛行ルートで地上移動通信ネットワークのカバー率を90%以上に引き上げる目標を打ち出した。各地では離着陸拠点やゼネラルアビエーション空港、低空スマートネットワークの整備が加速しており、深セン市は2026年末までに1200か所以上の離着陸拠点を整備する計画だ。成都市(Chengdu)や杭州市(Hangzhou)でも関連インフラの整備が進んでいる。
政策面でも、低空経済は2024年に初めて政府活動報告に盛り込まれ、2026年には「新たな基幹産業」の一つに位置付けられた。今年4月には、国家発展改革委員会低空経済発展司の鄭剣(Zheng Jian)司長が国務院新聞弁公室の記者会見で初めて公の場に登壇し、「第15次五か年計画」期間中の低空経済の発展方針を説明した。同氏は、低空経済は人びとの日常生活を支える存在となり、経済・社会の発展を促進するとともに、人びとの利便性や満足度の向上にも貢献していると述べた。
技術革新の目的は、技術そのものを誇示することではなく、人びとの暮らしを豊かにすることにある。中国で広がる低空経済は、山間部の郵便配送だけでなく、より便利で安全な社会への期待を支える新たなインフラとなりつつある。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News