【6月11日 AFP】英領北アイルランドの中心都市ベルファストでスーダン出身の難民の男が市民1人を刃物で刺して重傷を負わせた事件の凄惨な映像が、英国内外の極右アカウントに利用され、反移民暴動をあおる結果となった。ベルファストでは9日から2夜連続で反移民デモが開催され、参加者の一部が暴徒化した。

目撃者によって撮影された54秒間の動画は8日深夜、トミー・ロビンソンの通称で知られる極右活動家スティーブン・ヤクスリーレノン氏によってX(旧ツイッター)に投稿された。

ベルファスト北部の路上で40代の男性が刺されて重傷を負ったと警察が発表してから約1時間後のことだった。その後、被害者はスティーブン・オギルビーさんだと公表されている。

ヤクスリーレノン氏の投稿は瞬く間に拡散し、外国人嫌悪的なコメントや人種差別的なミームなど大反響を呼んだ。

自身が所有するXで2億4000万人以上のフォロワーを抱える米実業家のイーロン・マスク氏も、この事件に対する極右の反応を増幅させた一人だ。

襲撃の動画がX、特に英国を拠点とする反移民アカウントの間で次々と拡散されるにつれ、すべての移民は英国から退去すべきだといった要求を伴う、扇動的な投稿も相次いだ。

数時間のうちに、動画はフェイスブックでも拡散され、すべてのイスラム教徒の「国外追放」を呼び掛ける「アイルランド共和国」のページにも共有された。

北アイルランドを拠点とする別のアカウントは、大規模な反移民デモへの参加を繰り返し呼び掛けた。

その一方で、一部のフェイスブックユーザーは、小型ボートに乗ったアフリカ系移民が、ハーリング(ホッケーに似たアイルランドの球技)のスティックを振り回す男性にたたかれているAI(人工知能)生成画像を投稿した。

ベルファストの刺傷事件で、地元の男性がハーリングのスティックでスーダン出身の難民の男を撃退し、オギルビーさんの命を救ったとして広く称賛されている勇敢な行動にちなんだものだ。

■メディア規制機関の警告

この刺傷事件では、スーダン出身の難民、ハディ・アロディド容疑者(30)が10日、殺人未遂などの罪で訴追されベルファスト治安判事裁判所に出廷した。

英国外でもこの刺傷事件は偽情報の標的となっており、米国を拠点とするあるアカウントは、オギルビーさんが「斬首された」というデマを流した。

欧州では、ヤクスリーレノン氏の長年の盟友でオランダの極右活動家エバ・フラールディンガーブルック氏が、ベルファストの刺傷事件の動画を「ジェノサイド(集団殺害)的な暴力」になぞらえた。

英国のメディア規制機関である放送通信庁(オフコム)は10日、9日夜にベルファストで発生した暴動を受け、暴力をあおる投稿の拡散を制限するよう各プラットフォームに強く求めた。

反移民を掲げるフェイスブックのページは、覆面で顔を隠した暴徒が家々に放火する動画を公然と称賛。賛同するコメントが何百件も付いた。

一部のユーザーは、燃える住宅の動画に陽気なBGMを付け、逃げ惑う民族的少数派(エスニック・マイノリティー)の住民を嘲笑した。

これらの出来事は、昨年9月に射殺された米保守系活動家チャーリー・カーク氏が創設した政治団体「ターニング・ポイント・USA」の英国支部である「ターニング・ポイント・UK」も、一連の反移民投稿の中で伝えた。

ベルファストを拠点とする人権団体「Committee on the Administration of Justice」は昨年の報告書で、ソーシャルメディアが北アイルランドにおける暴動や人種関連暴力の「火に油を注いでいる」と警告していた。

英国への帰属維持を望むプロテスタント系ユニオニストと、アイルランドとの南北統一を求めるカトリック系ナショナリストによる北アイルランド紛争という血に塗られた歴史を持つ北アイルランドでは2024年から毎年、人種的動機に基づく暴動が発生している。(c)AFP