蘇州、古い伝統のシルクが現代トレンドと融合・中国
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【3月28日 People’s Daily】シルクは中華民族の偉大な発明であり、中華文明の文化の象徴でもある。古(いにしえ)の時代には贈り物の箱に収められた貴重な宝物、宮廷における華麗な装いだったシルクは、今日では日常生活に溶け込み現代的なトレンドに調和する布地として、千年の時を経て静かな変貌を遂げている。
夜7時、江蘇省(Jiangsu)蘇州市(Suzhou)姑蘇区の大施裁縫店では、1990年代生まれの店主・施意(Shi Yi)さんが新作商品の最終確認を入念に行っていた。この店が発売したばかりの冬用旗袍(チャイナドレス)は、ドレスの外観の趣はそのままに、内側に薄いダウンの「インナー」を施した画期的な商品だ。美観と実用性を兼ね備えたこの冬用旗袍は、発売と同時に注文が殺到している。
蘇州シルク博物館(Suzhou Silk Museum)は2023年以来、文様の「デジタル化」を推し進め、所蔵するシルク文様を静的な文化財の標本から、流通可能、革新可能、クロスオーバー可能なデータ要素と文化資産へと変貌させている。この機を捉え、施意さんは「デジタル文様ライブラリー」から雲紋、纏枝紋(てんしもん、唐草文様)、花鳥紋などの古典的なシルク文様を厳選し、ファッション性を加える改変を施した。
宋代に起源を持つ緻密な文様と豊かな色彩の絹織物「宋錦」製のハンドバッグはレトロさと通勤用の実用性を兼ね備えている。またシルクの抱枕(だきまくら、クッション)は住まいに雅やかな趣を添え、シルクのノートカバーからは文化的な質感が滲み出ている。一つひとつ精巧に作られたシルクの派生商品は、この古くから伝わる技術の応用範囲を常に広げ続けている。革新的なデザインが千年のシルクの趣きを「トレンディ」なものにし、テクノロジーの力が古くからの素材に全く新しい「強靭さ」を与えている。
汚れやすく手入れが難しいことが、シルク産業の発展を悩ませる問題点であった。呉江区盛沢鎮にあるシルク製品メーカー「華佳絲綢(Huajia Silk)」の王永瑜(Wang Yongyu)副総経理は、手に取った絹布に赤ワインを勢いよくかけて見せた。驚くべきことに、布でひと拭きするだけで、ワインの染みは跡形もなく消え去った。
「その秘密は、シルクにテクノロジーの『鎧』をまとわせたことにある」、布地の表面にナノレベルの保護構造を作るという革新的な方法で、シルクの汚れ落ちの悪さという難題を根本的に克服した。
シルクがシワになりやすく変形しやすいという業界の課題に対し「華佳」社の研究開発チームは繰り返し実験を重ね、精密な配合と特殊なプロセスで、天然シルクとスパンデックス糸を完璧に「結合」させることに成功した。これにより、シルク特有の天然の光沢、肌触りの良さ、通気性などの特性を維持しつつ、優れた弾性回復力と抗シワ性能を付与することに成功した。
王氏の説明によれば、「華佳」社は毎年、売上高の5%を研究開発に投入し、これまでに180以上の特許を取得している。一連の技術革新が製品の品質を高め、華佳シルクが世界中で売れるまでに押し上げている。
蘇州では、シルク産業の革新の鼓動をいたる所で感じることができる。蘇州市街から数キロ離れた「鼎盛絲綢(Dingsheng Silk)」の工場内では、新型のジャカード織機が轟音を響かせ、華麗な色彩と精緻な模様の「宋錦」の布地が次々と織り上げられている。「宋錦」は、その優雅で気品のある風合いと複雑精緻な文様で世界的に知られている。その伝統的な手作業によるクロスステッチ(刺繍)の工程は、非常に複雑で精密で、かつての職人は一日にわずか5センチメートルしか織ることができなかったという。
十数年前「鼎盛絲綢」の呉建華(Wu Jianhua)董事長は、チームを率いて「宋錦」用の電子ジャカード織機の開発に成功し「宋錦」の大量生産への道を切り開いた。現在、チームはジャカード織機に「デジタル頭脳」を搭載している。機体全体に張り巡らされた精密なセンサーが、運転状況などの重要な生産データをリアルタイムで読み取る。異常を感知すると即座に警告を発し、製品の品質を寸分の狂いもなく保証する。この一連のイノベーションで「宋錦」の生産効率は数百倍に飛躍し、かつては「手の届かない存在」だった「宋錦」が、手頃な価格で一般家庭にも普及するようになった。
今日、シルクの美しさは、華麗な衣装という単一の定義をはるかに超え、静かに日常に溶け込み、心を潤す詩的なライフスタイルへと昇華している。盛沢鎮からほど近い七都鎮には、500ムー(約33ヘクタール)の敷地を誇る「山水桑田生態園」の複合施設が広がり、古代から伝わる「桑基魚塘」(池の堤に桑の木を植え、養蚕と養魚を並行して行う生態循環型の農法)が見事に再現されている。ここでは大小の蚕室、絹織物工房など6つの機能エリアが整然と配置され、蘇州大学(Suzhou University)などの大学と共同で設立した産学連携基地が、伝統の技術がイノベーションによって新たな輝きを放つことを可能にしている。
「山水桑田」生態園の創設者は今年63歳の女性・劉瑛(Liu Ying)氏だ。この生態園の創設前、彼女が創業したシルク企業はその主力製品を30以上の国と地域に輸出し、年間生産額は1億元(約22億7800万円)に達していた。彼女は「過去数十年間、私たちは如何に優れた絹を織り、如何に良い衣装を作るかに専念してきた。今、私たちは養蚕・桑の文化に根ざし、自然本来の姿に立ち返る『絹のライフスタイル』を伝えていきたい」と話す。
都会のオフィス勤めの女性・徐莎莎(Xu Shasha)さんは、「山水桑田」の常連客だ。休日には家族を連れて訪れ、香り高い桑茶を飲み、甘い桑の実を味わい、田んぼのレストランでシルクをテーマにした創作料理を楽しむ。シルクの紡績・織物などの無形文化遺産体験コースに参加して、一日中養蚕・植桑の生活を没入型で体験する。「ここは都会の喧騒から隔絶された場所で、時間がゆっくりと流れ、心も静かになる」と徐さんは語る。
25年、「山水桑田」は延べ数万人の観光客を誘致し、周辺の民宿や農産物の販売を効果的に促進した。蘇州では、古くからの養蚕の知恵は、もはや埃をかぶった遺産ではなく、活気に満ちた暮らしの熱気を帯び、新たな生命力が吹き込まれた「日常の経済」になっている。(c)People’s Daily /AFPBB News