【3月8日 東方新報】「かつらを買うなら鄄城」「質感が抜群」「自毛より自然」――。いま「頭上の美学」を語るうえで、山東省(Shandong)西南部の古県・鄄城は外せない存在となっている。春秋時代の歴史と武将・孫臏(Sun Bin)伝説で知られるこの町が、いまや一本の細い髪の毛で世界市場を揺り動かし、「中国ヘア産業の都」として国内外に名を広めている。

夜明け前、鄄城県鄭営鎮のヘア原料の取引市場はすでに活気づく。竹かごに山のように積まれた髪を前に、商人たちの掛け声が飛び交う。熟練の職人は指先の感触だけで髪の質や産地を見分ける。鄄城ではこの市場を「人毛大市」と呼び、何世代にもわたり商いが続いてきた。40代の于高華(Yu Gaohua)さんもその一人だ。祖父の代は馬のたてがみや皮革とともに髪を扱い、父の代で人毛専門となった。「この一本が家族の生計の柱だ」と語る。

鄄城の人毛産業は1960年代にはすでに形成されていた。いまでは約10万人がこの産業に従事し、原料の買い付けから加工、販売まで一大産業へと成長している。

かつらづくりは高度な職人技の世界だ。選別、消毒、引き伸ばし、植毛、カット、スタイリングと、工程は百以上に及ぶ。中高級品では顧客の頭の形や髪色に合わせて手作業で仕上げるため、完成まで数週間を要することもある。自動化が進んでも、肝心の工程は今も手作業が中心だ。一本一本の向きを揃え、自然な動きを出すための細やかな作業が、鄄城製品を世界の中高級市場で支えている。

2024年、鄄城の発製品関連企業は141社にのぼり、県全体の輸出入総額の約7割を占める25億元(約555億5555万円)を記録した。年間加工量は5000トン、製品は3000万点に達する。

近年は電子商取引が追い風となった。夜になるとライブ配信で商品を紹介し、海外へ直送する販売スタイルが定着している。地元には2000以上のネット店舗と8000人超の従事者がおり、米国や欧州を含む80以上の国・地域に製品を送り出している。越境ECやSNSを活用し、かつては市場の「集市商品」だったかつらが、いまでは世界的なヒット商品となった。

2025年に開かれた鄄城初の発製品博覧会には30か国以上から150人のバイヤーが集まり、会場での成約額は1億7000万元(約37億7777万円)を超えた。背景には、原料調達から加工、販売、物流までを一貫して担う産業チェーンの整備がある。1000社以上の関連企業と100社超の一定規模企業、20以上の自社ブランドが集積し、保税倉庫や越境EC拠点の整備も進む。

現在、鄄城の年間工業総生産額は100億元(約2222億2220万円)を超え、「第14次五か年計画」期間中の輸出額は累計120億元(約2666億6664万円)を上回った。

市場で髪を買い集める小さな商いから、世界中の注文を受ける大産業へ。伝統の手仕事にデジタル販売を融合させ、鄄城は一本の髪から世界へとつながる成長モデルを築き上げている。(c)東方新報/AFPBB News