【2月13日 CNS】毛糸一玉とかぎ針一本さえあれば、2時間足らずの移動時間で、もこもこのバッグが完成する。中国のSNSでは、高速鉄道の車内でセーターを編む動画が1万件以上の「いいね」を集めている。「乗車時は毛糸ひと玉、降車時にはバッグひとつ」。完成までの過程と成果がすぐに実感できる編み物は、知らず知らずのうちに中国の若者の心を癒やしている。今や、職場のデスクや学校、飛行機や高速鉄道、公園やカフェはもちろん、病院で点滴を受けながらでも、編み物を始める人がいる。

こうした流れを象徴するように、SNSの小紅書(Red)はこのほど上海で「編女の集い」と題したイベントを開いた。「編女」は中国神話に登場する、養蚕や機織りをつかさどる女神の名だが、現在では若い編み物愛好家が自らを呼ぶ言葉として使われている。会場には各地から集まった参加者が自作のかぎ針編み作品を持ち寄り、展示や交換を行った。初の毛糸コンテストのほか、「編み物シアター」「編み物地下鉄」など、日常生活の中で編み物を楽しむ場面を再現したコーナーも設けられた。さらに、中国伝統医学の専門家を招き、首や手首の健康相談も実施され、イベントには約2万人が訪れた。

編み物ブームは、オンライン上の交流にとどまらず、オフラインにも広がり、一定の規模を持つ若年層のコミュニティを形成している。小紅書では、編み物関連の話題の閲覧数が約9億に達し、「かぎ針編み」は2025年の注目趣味コミュニティの一つにも選ばれた。

祖母世代の編み物とは異なり、今の若者はカシミヤのセーターや有名ブランド風のマフラーといった本格的な作品だけでなく、「ゴキブリ」や「解剖マウス」「強盗帽」など、ユーモアあふれる一風変わった作品にも挑戦する。「ちょっと変なものを編んでいると、それだけで楽しくなる」。愛嬌のあるカエルの編みぐるみを作ったkikiさんは、そう語る。

忙しさに追われる現代社会の中で、編み物は感情を整える手段としても注目されている。愛好家の間では、編み物は「一度始めるとやめられない」と言われるほど没頭しやすい。「目が覚めたら編み始める」「寝る前の5分が、体感では2時間に感じる」。その理由について、脳をリラックスさせ、情報や感情の過剰な負荷を和らげる効果があると考えられている。SNSユーザーの@咕嚕醬は、「図案を見る、毛糸を選ぶ、編み方を研究する、長い時間をかけて編み進め、最後に完成品が手に入る。どの段階にも前向きな手応えがあり、心を整えるプロセスそのものだ」と投稿している。

人とのつながりも、編み物文化の重要な要素になりつつある。毛糸を編んでいたことで、思いがけない交流が生まれたという体験談は少なくない。「飛行機でセーターを編んでいたら、客室乗務員からお礼のカードをもらった」「自作のセーターを着ていたら、道で年配の女性に声をかけられ、編み柄を見せてほしいと言われた」「英国でバスに乗りながら手袋を編んでいたら、隣の少女に話しかけられ、かぎ針を教えてほしいと頼まれた」。

一方で、編み物は決して安上がりな趣味ではない。ベテラン愛好家の小米さん(Xiao Mi、仮名)は、「セーター1枚分の材料費は数百元(100元=約2226円)が一般的で、輸入糸を使えば、材料セットだけで1000元(約2万2267円)以上かかることも珍しくない」と話す。それでも、理想の仕上がりを求めて高品質な糸を選ぶ人は多い。こうした消費の広がりは、関連産業の成長にもつながっている。

広東省(Guangdong)潮汕市(Chaozhou)出身のブロガー「小黄香蕉」は2014年、経営難に陥っていた両親の手編み装飾工場を引き継いだ。自身の現代的なデザインと、年配女性たちが持つ伝統技術を組み合わせ、「手鉤女団」を立ち上げ、伝統工芸に新たな価値を吹き込んだ。

近年では、オリジナルのかぎ針編み作品で特許を取得したり、材料キットを販売したりして起業する若者も増えている。若年層向けの編み物体験店も各地で相次いで誕生し、不完全な集計ながら、上海市、広州市(Guangdong)、成都市(Chengdu)、北京市、香港、天津市(Tianjin)、西安市(Xi'an)の7都市だけで70店以上のブランド体験店があるという。多くの毛糸店は定期的に対面講座を開き、コーヒーも提供し、愛好家が集える場を提供している。「楽しくて温かい。まさに編み物好きの楽園。ここにずっと居られそう」。そんな声も聞かれる。(c)CNS/JCM/AFPBB News