【三里河中国経済観察】中原の農業県が、世界の茶飲料原料拠点へ
このニュースをシェア
【1月26日 CNS】中国・河南省(Henan)温県の陳家溝では、太極拳の拳士たちが朝から稽古に励む。その拳郷のすぐ近くにある工場でも、別の意味での「腕前」が静かに磨かれている。
茶飲料チェーンの蜜雪冰城(Mixue)に原料を供給する生産ラインから出発した大咖国際(Daka International)は、「蜜雪冰城の中央工場」とも呼ばれ、いまでは年商が100億元(約2281億4400万円)に迫る規模に成長した。
温県は河南の農業県で、太極拳の発祥地として知られ、「四大懐薬の産地」としても名が通る。そんな温県が、実は世界のティードリンク向け原料を支える重要拠点にもなりつつある。伝統文化の土台の上に新しい産業が根を下ろし、地域の魅力が外へ広がっていく――その両方が同時に進んでいる。
農村を活性化するには、まず産業の力が欠かせない。2025年初め、国家発展改革委員会の担当者は「農村全面振興計画(2024—2027年)」に関する説明で、今後数年の重点課題として、農村産業の質を高め、農民の所得を増やすことを挙げた。現代的な産業体系の整備、一次・二次・三次産業の連携強化、所得増に向けた施策の充実、農村消費の拡大などが柱になるという。
温県の産業高度化は、小さな核を起点に、関連産業をつなげ、集積へと広げていく形で進んできた。出発点はごく素朴な農業資源だ。薬用価値でも知られる鉄棍山薬の年間生産量は約10万トン、生産額は30億元(約684億4320万円)に達し、焦作市の懐山薬(高品質な山薬)の主産地として存在感を保ってきた。小麦の栽培も歴史が長く、「小麦の郷」と呼ばれている。
ただ、特産品があるだけなら、どこにでもある農業県の話で終わってしまう。温県はそこから先へ進んだ。
世界の若者が蜜雪冰城を飲むとき、カップの中の原料が太極拳の故郷で作られているとは想像しにくい。武術ファンが陳家溝を訪れて学ぶときも、ここが世界の茶飲料向け原料を支える供給拠点になっていることを知れば驚くだろう。
温県の飛躍を象徴するのは、蜜雪冰城向け原料産業の急成長だ。もともとは蜜雪冰城に原料を供給していた企業が、いまでは世界有数の茶飲料原料の生産拠点を築いた。
そこは単なる工場ではない。上流では茶葉、乳製品、果物など世界各地の産地とつながり、下流では蜜雪冰城の世界5万店を超える店舗網を支える。こうした供給網が生む経済効果は大きく、温県を「地方の一県城」から、世界の茶飲料産業の中で存在感を持つ地域へと押し上げた。
「山薬を作る町」から「茶飲料産業を支える町」へ。温県の歩みは、資源頼みの段階を越え、より高い付加価値を生む産業へ移っていく農村振興の変化を、具体的に示している。
産業の発展は、農家の収入にも直結する。公開情報によれば、大咖国際は農業産業化を担う国家級の重点企業として、地元の山薬産業の強みを生かし、山薬の缶詰や山薬粉などの加工品を開発してきた。地元の農産物などの年間調達額は1.5億元(約34億2216万円)に上り、販路拡大にもつながったという。結果として8000戸余りの農家の所得向上を後押しし、農業の高度化にも寄与している。
村の集団経済も伸びている。2024年、温県の262の村すべてで村集体経済の年収が5万元(約114万720円)を上回り、10万元(約228万1440円)超の村は182(69%)、50万元(約1140万7200円)超は52(20%)、100万元(約2281万4400円)超は22だった。
さらに、産業と文化を組み合わせた地域づくりも動き出している。太極拳と蜜雪冰城という二つの国際的なブランドを軸に、「太極・蜜雪」文化観光の融合モデル地区の整備を進めているという。統計によれば、温県の2024年の観光客数は延べ803万人、観光収入は6.5億元(約148億2936万円)で、前年よりそれぞれ12%、19.4%増えた。
「太極の聖地」と「蜜雪冰城の原料供給地」という二つのイメージが重なることで、「武」と「飲」の組み合わせは単なる産業の看板を超え、地域の魅力として育ちつつある。伝統に根ざしながら人を呼べる、新しい観光の形を切り開こうとしている。
伝統と現代、産業と文化を組み合わせて地域を育てる温県の取り組みは、中原の地で着実に進んでいる。次に大きな注目を集めるタイミングは、そう遠くないのかもしれない。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News