【1月21日  People’s Daily】朝早く、福建省(Fujian)泉州市(Quanzhou)豊沢区の蟳埔村はまだ薄っすらと海霧に包まれていたが、黄麗泳(Huang Liyong)さんの花の髪飾りの店には温かな灯りが灯っていた。

灯りの下で、彼女の指先が軽やかに動き、ピンクのデイジー(ヒナギク)やオレンジレッドのコウシンバラ(月季、中国原産のバラ)を編んで輪を作り、観光客の娘さんの髪に留めると、鏡に映った娘さんはたちまち「小さな花園を頭に戴いた」ような姿になった。笑い声が古い路地に広がった。

こんな光景が蟳埔村では毎日繰り広げられている。村を散策すると、カキの殻を積み上げて築いた閩南(福建南部)特有の建築「蚵殻厝(カキ殻の壁)」が頑丈にそびえ立っている。軒下では「簪花囲(花の髪飾り)」を頭に戴いた観光客が足を止めて写真を撮っている。その風景は、まるで見渡す限りの動く花畑のようだ。

観光客が名声を慕って体験しにやって来るのは、蟳埔村の伝統的風俗「簪花囲」だ。この面積1.5平方キロ、常住人口7000人余りの小さな漁村は、今では千年の「花の髪飾り」の風習を頼りに、文化・商業・観光が融合した新しい発展の道を歩み出している。蟳埔村は泉州湾の晋江下流の河口北岸に位置し、古代の「海上シルクロード」の重要な出発点の一つで、千年の歴史を有する。

「蟳埔の簪花囲」には悠久の伝統がある。黄さんは「子どもの頃から祖母や母が花の髪飾りをするのを見て育った。学校からの帰り道、いつも路地で鮮やかな簪花囲を頭に載せたおばあさんたちが特別な輝きを放っていた」と、昔を思い出す。

蟳埔の人たちは代々海を生活の場とし、漁業や干潟養殖で生計を立ててきた。花の髪飾りは単なる装飾ではなく、より良い生活への願いそのものなのだ。

昔この村では、村の男たちが海に漁に出る時、女たちは髪に鮮やかな花を飾って、家族の無事な帰りを祈った。花は生命力を表し、たとえ嵐に遭っても、女たちの頭上の花を思い浮かべれば、生きて帰ろうという希望が湧いたのだという。

今、この村では漁業を営む人は少なくなったが、花飾りに込められたこの思いは、観光客の観光体験を通じて、より遠くへ伝えられている。

2008年「簪花囲」に代表される蟳埔村の女性の習俗が「第二回・国家級無形文化遺産リスト」に登録され、黄さんも無形文化遺産代表継承者という肩書を得た。

「戴くのは単なる花飾りではなく、千年受け継がれてきた文化ですね」、ちょうど「簪花囲」を施し終えたばかりの若い観光客は感激している。

「簪花囲」をテーマにした一連の写真が23年に雑誌に掲載され、「簪花囲」はネットで大ブームとなり、蟳埔村も注目を浴びた。データによると、24年に蟳埔村を訪れた観光客数は850万人を超え、観光収入は18億元(約399億4200万円)を突破した。25年1月から7月までに蟳埔村が受け入れた観光客総数は426万人を超え、観光消費は8億6000万元(約190億8340万円)を超えた。

23年に起きた「第一波・簪花囲ブーム」による巨大な人の流れを受け止めるため、地元では保護と文化継承のための新しい取り組みが次々に打ち出された。

23年11月「蟳埔簪花囲民俗文化協会」が正式に発足し、黄さんが初代会長に選出された。黄さんは「協会が出来てから最初にやったことは、簪花囲に関する民俗史料の整理、村の簪花囲職人の研修と組織化、サービス基準の統一です」と話す。

今年、一連の基準が正式に発表され、花の新鮮さ、簪花の工程から、料金体系、サービス用語まで、詳細に規定された。「サービスの方向性が明確になり、観光客もより安心できるようになった」と黄さんは強調する。

村民の話によれば、以前この村では主に干潟養殖や海産物販売を生業にしていたが、今では次々と簪花囲店や軽食店など観光ビジネスにシフトし始めているという。現在は約300軒の観光写真撮影スタジオがあり、観光客は1日平均で2万人にもおよぶ。

伝統を受け継ぎながら革新を続けることが、蟳埔の花の髪飾りの持続的な人気の鍵となっている。蟳埔の地元民・黄晨(Huang Chen)さんは、40年以上にわたる衣料品経営の経験を持つ。「簪花ブーム」が起こると、商売に敏感な彼はすぐに商機を感じ取り、蟳埔の伝統的な「漁女(漁労に従事する女性)」の衣装を専門にレンタルする店を開いた。「観光客は簪花囲だけでなく、漁女の衣装を身につけて、蟳埔文化の没入体験ができる」と話す。 

また彼は伝統のデザインに改良を加え、伝統的な質感を保ちながら、より写真映えする衣装になるよう工夫した。

現在、店には百着以上の異なるスタイルや色の漁女服があり、観光客は自分の好みに合わせて選ぶことができる。ピークシーズンには1日50~60着が貸し出され、多くの観光客が衣装を着て海辺や古い路地で写真を撮る姿は、村を彩る移動する風景となっている。

観光人気を持続させるため、地元はさらに業態の革新、環境整備、文化発掘など多方面の取り組みに力を入れ、「簪花囲、旅のフォト、海を感じる、路地との出会い、音を聴く、地元芝居見物、海の幸、楽しいショッピング」という八大体験の創出を目指している。

閩南の風味と簪花文化を融合させた「簪花宴」から、様々な簪花をモチーフにしたカルチャーグッズ、バンド演奏、ライトショー、花火ショーなどを集めたナイトマーケットまで、融合と革新による文化観光の集客力が、持続的な発展の突破口となっている。

今や蟳埔村は、「花の髪飾り」を絆として、伝統文化と現代的な観光と特色ある産業を深く融合させている。データによると、22年から24年にかけて、蟳埔村の住民一人当たり収入は2倍以上増加し、簪花文化が牽引した消費額は累計50億元(約1109億5000万円)を超えた。簪花は蟳埔村の伝統文化に息を吹き込み、村民の生活をますます豊かにしている。(c)People’s Daily /AFPBB News