北朝鮮が「トウモロコシ」より「小麦」を選んだ理由 [韓国専門家コラム]
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【12月19日 KOREA WAVE】北朝鮮が今、小麦に賭けている──。
12月9日から11日にかけて開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第13回全員会議において、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記は「国家5カ年経済発展計画は完了した」と述べ、農業分野では前年を上回る穀物収穫量を確保したと報告した。そして来年の最優先課題として「農業・農村部門の改革」を掲げ、小麦の作付け面積拡大と製粉能力の強化を強調した。
キム総書記は2021年9月、最高人民会議の施政演説で「全国の小麦・大麦の播種面積を2倍以上に拡大せよ」と指示。以降、北朝鮮ではトウモロコシやジャガイモに代わる主食として、小麦への転換が本格化している。2022年と比較して、2024年には約3万5600情報(1億680万坪)もの小麦・大麦の作付面積が増加したとされる。
この流れはキム・ジョンウン政権から始まったわけではない。父キム・ジョンイル(金正日)総書記の時代にも、ジャガイモを「主食」に据える取り組みが進められた。1998年、両江道を視察したキム・ジョンイル総書記は「ジャガイモは白米と同じ価値がある」と述べ、生産拡大を指示。ロシア訪問時にも、主食としてのジャガイモ普及に言及していた。
しかし、実際にはこの「ジャガイモ革命」は失敗に終わった。北朝鮮住民の主食は依然として米やトウモロコシが中心で、ジャガイモは嗜好品や救荒作物の域を出なかった。韓国銀行の調査によれば、2000年代半ばには米45%、トウモロコシ34%、ジャガイモ17%という比率で、むしろジャガイモの割合は低下していた。
現在、北朝鮮で小麦の消費は確実に増えている。1990年代の食糧難以降、韓国や国際機関による支援でパン工場が建設され、子どもを中心にパンの消費が拡大。また中国との貿易拡大により、ラーメンやスナックなどの小麦加工食品が市場に出回るようになった。
2012年に開業した平壌の「光復地区商業中心(旧光復百貨店)」や大成百貨店のスーパーでも、小麦原料のパンやお菓子が定番商品となっている。これは、消費者の嗜好が米やトウモロコシよりも、より「西洋的」な食文化へとシフトしつつある証左ともいえる。
また農業技術的にも、トウモロコシより小麦への転換は理にかなっている。トウモロコシは肥料を大量に必要とし、自然災害にも弱い。一方、小麦は比較的安定した作物であり、地球温暖化の影響を受けにくいとされる。
北朝鮮は2024年、全国に製粉工場を新設・改修し、加工能力を倍増。小麦・大麦の生産量も前年より6万トン増の28万トンとなった(韓国・農村振興庁推定)。とはいえ、依然としてトウモロコシの生産量は150万トンを超え、小麦の3倍以上。実際の現場では、依然として慣れたトウモロコシ栽培に依存しているケースも多い。
北朝鮮自らも「小麦の種子や栽培技術はまだ未成熟」との認識を示している(労働新聞・2024年11号)。
こうした背景から、北朝鮮はロシアとの農業協力を通じ、小麦供給の安定化を図ろうとしている。注目されるのは、ロシア極東(沿海州)での共同耕作構想だ。
この構想は目新しいものではない。キム・ジョンイル総書記は2001年に訪露した際、プーチン大統領に「北朝鮮の人員25万人を派遣し、沿海州の農地で共同営農したい」と提案していた。南北ロシアによる三角協力も、過去に韓国政府が模索したテーマである。
2023年のキム・ジョンウン総書記によるロシア訪問を契機に、この構想が再浮上。ウクライナ戦争後、ロシアが実効支配するウクライナ地域での営農も、一部で取り沙汰されている。
山岳地帯が多く、稲作に限界のある北朝鮮で、食料の自給は長年の課題だ。近年は都市部を中心に朝食をパンで済ませる家庭が増え、若者世代の間ではラーメンやハンバーガーなどの“ファストフード”も普及している。
キム・ジョンウン政権の小麦シフトは、こうした実情と農業現場の現実を踏まえた政策的な転換点といえる。もちろん、急速な構造転換は困難であるが、長期的にはトウモロコシに代わる“主食”として、小麦の地位は確実に高まるだろう。
キム・ジョンウン時代の小麦戦略は、単なる作物の選定ではない。国内の食文化、農業構造、さらには外交戦略を巻き込んだ、北朝鮮にとっての「食糧自立」への挑戦なのである。【チョン・チャンヒョン平和経済研究所長】
(c)news1/KOREA WAVE/AFPBB News