8年間「救急屋台」を続ける夫婦が広める「救命技術」・中国
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【11月27日 People’s Daily】安徽省(Anhui)阜陽市(Fuyang)太和県では、週末や祝日になると、公園の一角にいつも一風変わった「屋台」が登場する。この屋台では商品は売らず、心肺蘇生の練習用人形と救急キットが置かれているだけだ。金銭取引は一切なく、ひたすら応急手当の技術を教えている。屋台の主は夫の呉磊(Wu Lei)さんと妻の劉静(Liu Jing)さんの夫婦だ。二人はそれぞれ、太和県人民医院医療共同体弁公室の副主任と救急科看護師長を務めている。
二人は8年以上にわたりこの「緊急救命屋台」を続け、仲間を率いて地域、学校、官公庁へ出向いてボランティア講習を行い、10万人以上に「命を救う技術」の習得の手助けをしてきた。
「緊急救命屋台」を始めたきっかけを話した時、呉さんは思わず眉をひそめ、顔いっぱいに悔しさを浮かべた。
「8年前、40代の男性が釣りの最中に誤って水に落ち、すぐに救助されたものの、現場に適切な心肺蘇生法を知っている人がおらず、『救命のゴールデンタイム』を逃がしてしまった。30分後に救急隊が到着した時にはもはや手の施しようがなく、ただただ命が消えていくのを見守るしかなかった。あの無力感は、今でもはっきりと覚えている」、呉さんは悔しい思い出をこのように語った。
救急科で20年以上働く劉さんも、救命知識の不足が招いた悲劇を数多く見てきた。8年前に呉さんが家でその悔しい出来事を話した時、劉さんは夫の気持ちを深く理解した。「病院の治療だけでは不十分だ。病院を飛び出して、救命知識を人びとの元に届けるべきだ」、彼女はそう言って、夫婦は即座にある決断を下した。
彼らは、救急教室を病院から街頭へ「移し」、「屋台」を出して教え始めることにした。季節はちょうど夏で、休日に人通りの多い地元の沙頴河国家湿地公園で屋台を出した。「初めて屋台を出した時は、誰も見向きもしなかった」、呉さんは当時をこう振り返る。30分以上立っていても、誰一人として近づいてこなかったという。最初は本当に大変で、諦めかけたこともあったようだが、呉さんの目標はシンプルだった。「私が話せば、誰かが聞いてくれる。誰かが学んでくれれば、命が救える可能性が生まれる」という考えだった。
寒さも暑さも関係なく、彼らは毎週屋台を出し続けた。そうすると、少しずつ屋台の前で足を止める人や、自ら進んでやってみたいと言い出す人も現れ始めた。「今では、屋台を出すたびに、実践練習したい人が長い列を作るほどだ。皆がこんなに積極的に参加してくれるのを見ると、我々の休憩時間を少し犠牲にしても、何とも思わない」、夫婦はそう話している。
「どなたか挑戦してみませんか?マンツーマンで指導しますよ」、呉さんが声を張り上げると、住民の孫凱(Sun Kai)さんが手を挙げた。呉さんの手取り足取りの指導で、孫さんはすぐに心肺蘇生の操作をマスターした。孫さんは「以前動画で学んだことがあり、できると思っていたが、実際にやってみるとやはり色々なミスが出た。呉先生の『救命屋台』は本当に必要だ」と語った。
8年以上にわたり、夫婦は専門知識とたゆまぬ努力で、多くの人びとに救命技術を学ばせてきた。2021年には、研修生の銭勝利(Qian Shengli)さんが学んだ救命知識を使って溺れた子どもを救い、23年には、研修生の周飛(Zhou Fei)さんが心停止状態の通行人を蘇生させた。24年にも、研修生の史浩(Shi Hao)さんが体育館で心停止を起こした人に迅速に心肺蘇生を施した。
およその統計だが、「緊急救命屋台」の研修を受けた研修生たちは、水難事故や突発性心筋梗塞などの緊急事態で20名以上の人びとを救命している。呉さんは「つい先日も、屋台を出していた時、住民がわざわざ駆け寄ってきて『習ったハイムリック法(腹部突き上げ法)』で同僚の家の子どもを救うことができたと報告してくれた」と話す。そんな報告を聞くたびに、夫婦はより一層確信を強めるそうだ。「一度の屋台講習で、たとえ一人だけでも技術を覚えてくれたなら、それだけで価値がある」と。
街頭での指導だけでなく、太和県人民医院の支援を受けて、夫妻は17年に「太和県プラチナの10分間セルフ救急協会」を設立した。協会のメンバーは主に救急医療従事者で構成されている。ここ数年、夫妻は協会メンバーを率いて学校、地域社会、官公庁、企業・団体に足を運び、累計300回以上の救急知識普及活動を展開している。
地域住民の救命能力向上を図るため、太和県人民医院は19年に「太和県公衆救急訓練センター」を設置し、呉・劉夫妻を主力トレーナーに任命した。ここでは現在まで20回にわたる公衆救命能力向上訓練コースが開催され、1000人以上が試験に合格し、関連の資格を取得している。「二人の力には限界がある」と劉さんは言う。そして「救命技術の普及事業に一人でも多くの人が参加してほしい。これが私たちの最大の願い。一人でも多くに教えれば、安全が一つ増えることになる」と強調した。(c)People’s Daily /AFPBB News