【故宮百年】故宮の猫たち――紫禁城を守る「生きた文化財」
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【10月22日 CNS】北京市・故宮(紫禁城、Forbidden City)の神武門の前には、観光客がよく写真を撮る四匹の猫の像がある。すぐそばの「角楼カフェ」では、カップの上に猫のフィギュアを置いて撮影する人も多い。今や猫は故宮のシンボルのひとつであり、観光客と故宮をつなぐ存在として、厳かな宮殿に温かみと親しみを添えている。
いまでは「故宮で猫に会う」「故宮の猫を撮る」ことが一つのブームになっている。スマートフォン片手に「故宮猫マップ」を見ながら猫を探す人も多く、頤和軒や御花園など、猫がよく姿を見せる場所をまとめたリストまで登場している。現在開催中の故宮博物院(The Palace Museum)の百周年記念展では、夜の展示を見に訪れた人が思いがけず猫に出会うこともある。北京の観光ガイド・李雯(Li Wen)さんは「昼間に何度も来たことがあるけれど、夜十時ごろに初めて故宮の猫を見て感激した」と話していた。
観光客が見かけるのは、実は故宮猫の世界のほんの一部にすぎない。日が暮れ、朱塗りの門が閉じると、人の姿が消えた宮殿の中にかすかな音が響く。すると、色とりどりの毛並みをした猫たちが静かに現れ、何百年も続く夜の見回りを始める。
故宮に猫が暮らすようになったのは、今に始まったことではない。明・清の時代からすでに「住み込みの住民」として存在していた。当初は広大な木造建築群や穀物庫を守る「ネズミ捕り係」として働いていたが、やがて宮廷生活の一部となっていった。特に猫好きとして知られる乾隆帝は、十匹以上の猫を飼い、自ら名前を付けた。「清寧(Qing Ning)」「翻雪(Fan Xue)」「普福(Pu Fu)」などの猫は、西洋画家・グナティウス・シッヘルバルト(Ignatius Sichelbart、中国語名:艾啟蒙)の手で『狸奴影』という絵画集に描かれている。
後宮では猫を飼うことが妃や女官たちの楽しみでもあった。猫の名前や生年月日を記した名簿が作られ、月ごとに「俸銀(手当)」が支給され、専任の世話係もいたという。清の道光年間の猫の名簿は、今も中国第一歴史档案館に残っている。
王朝の終わりを経て、1925年に紫禁城が一般公開されると、博物館「故宮」として生まれ変わると、一部の猫は市街に戻り、残った猫たちはそのまま故宮に暮らし続けた。現在、故宮博物院には約200匹の猫がいて、その中には当時の宮廷猫の子孫もいると考えられている。
「職員の間では『宮中の捜査官』と呼ばれています」と、故宮博物院の研究員・周乾(Zhou Qian)氏は話す。日が沈み、観覧が終わると、猫たちは巡回を始め、建物を守る。72万平方メートルの広大な敷地でネズミが見つかったことはなく、木造建築が齧られた例もない。前院長の単霁翔氏は「故宮にネズミがいないのは猫たちの働きのおかげだ」と語っている。
ドキュメンタリー『我在故宫修文物(訳:私は故宮で文物を修復する)』では、修復師の王津(Wang Jin)氏が作業を終えると、故宮の奥で猫に餌をやり、秋の陽だまりを一緒に楽しむ姿が映し出されている。この場面は、多くの人が「理想の職場」と感じた印象的なシーンでもある。いまや職員たちにとって猫は同僚であり友人でもある。皆で名前を付け、餌をやり、病気の世話までしている。かつての皇帝の庭園は、今、人と動物が穏やかに共存する場所になった。
SNSでも「故宮の猫」は人気者だ。公式アカウントでは「宮猫記」という連載で猫の日常を漫画で紹介している。「鰲拜(Ao Bai)」「白点儿(Xiao Dian Er)」「小崽儿(Xiao Zai Er)」などの人気猫はネット上で多くのファンを集め、猫に会うことを目的に訪れる人も少なくない。全国からは「慈寧宮の鰲拜へ」「頤和軒の小崽児へ」と宛てたキャットフードの小包も届く。古い宮殿で小さな命と出会うことに、人びとは不思議な温かさを感じている。
この人気は、猫を題材にしたグッズにも広がっている。故宮出版社は、猫を主人公にした絵本シリーズ「故宫宫喵家族(訳:故宮にゃんこ一家)」を出版し、キャラクターは観光バスや遊覧船にも登場している。2023年には中国児童芸術劇院(China National Theatre for Children)と故宮博物院が共同でミュージカル『猫神 in 故宮』を制作し、時を超えて紫禁城を守る猫「宝貝儿(Bao Bei Er)」を主人公に据えた。
2025年には上海市や北京市など各地で上演されている。脚本家の馮俐(Feng Li)氏は「この猫が故宮の物語を世界に伝えてくれれば」と話している。
故宮の猫たちは展示品ではないが、「生きた文化財」といえる存在だ。百年を迎えた故宮博物院にとって、猫たちの存在は、歴史に息吹を与える象徴となっている。(c)CNS/JCM/AFPBB News