【10月21日 CNS】北京市・故宮(紫禁城、Forbidden City)の城壁の角に、赤い壁と青い瓦屋根が印象的なカフェがある。店の人気メニューのひとつ「康熙帝のお気に入りチョコレート」が来店者の目を引く。伝えられるところによると、清の康熙帝は中国で初めてチョコレートを口にした皇帝だった。当時、彼はチョコレートを薬の一種と勘違いし、イタリアの宣教師に取り寄せを命じたという。だが薬効はなく、期待を裏切られたというこの逸話は、今ではユーモアを添えて現代のカフェメニューに生きている。

歴史や文化を現代の生活に溶け込ませる――それが故宮博物院(The Palace Museum)の文化商品づくりの核心だ。話題のカフェ「角楼カフェ」はその象徴的な存在である。七宝焼を思わせる模様のカップに、「千里江山図」の色合いを使った抹茶ロールケーキ。かつての皇帝の世界観を感じさせるティータイムは、訪れる人の疲れを癒すひとときとなっている。

カフェの一角には、故宮ブランドのオリジナルグッズを扱う売り場もある。棚には、ユニークな日用品から収蔵品をモチーフにした工芸品まで、多彩な商品が並ぶ。唐代の「雀と花枝文様の鏡」を再現した小型ミラーや、「朕には見透かせぬ」と書かれたシルクのアイマスク、かわいらしい「故宮ネコ」シリーズのフィギュアなどが人気だ。さらに、『養心殿』や『冷宮』といった宮廷ドラマでおなじみの建物名をデザインしたマグネットも、観光客の定番土産になっている。

故宮の文化商品が大きく注目を集めたのは2014年。清の雍正帝を題材にしたアニメーションスタンプがSNS「微信(ウィーチャット、WeChat)」で爆発的な人気を呼び、博物館としてのブランディングが新たな段階に入った。以来、故宮は豊富な文化資産と現代的なデザイン感覚を融合させ、中国のミュージアムグッズ市場をリードする存在となった。商品は紙製マスキングテープやマグネット、歴史上の人物をモチーフにしたスタンプから、「千里江山図」や鳳冠、宮殿天井の装飾などを取り入れたデザインへと進化している。

近年のヒット商品は「孝靖皇后の鳳冠マグネット」だ。金属レリーフに宝石の装飾を施した華やかなデザインで、「皇后の冠を持ち帰る」感覚を味わえる。内部には可動部分があり、スマートフォンで読み取るとAR(拡張現実)で映像が楽しめる仕掛けもある。ほかにも光るランタン型マグネットや、種を育てられる花瓶型マグネットなど、体験型のアイテムが人気だ。単なる観賞用ではなく、「触れて楽しむ」「使って楽しむ」製品として進化している。

こうした多感覚体験の発想は、故宮の文化事業が大切にしてきた「人に寄り添う博物館」という理念をよく表している。2024年12月には、障がい者向けに設計された「インクルーシブ・ミュージアム」が故宮内にオープンした。館内には「音で感じる故宮」「手で触れる故宮」「香りで味わう故宮」という3つのテーマゾーンがあり、触って楽しめる中軸線の模型や琉璃瓦の装飾、斗拱(ときょう)の構造模型のほか、鐘や琴など実際に音を出せる楽器も並ぶ。さらに、御花園の香りを再現したアロマは、松の葉、白檀、蜂蜜をブレンドした優しい香りで、嗅覚を通して歴史を感じさせる。こうした五感を使った文化体験は、2025年5月に開かれた「故宮ミュージアム・ユネスコ展」でも紹介され、国際的に高い評価を受けた。

故宮博物院の前院長・単霁翔(Dan Jixiang)氏によると、すでに2017年には文化商品の年間売上が15億元(約318億2625万円)に達しており、上場企業を上回る規模だったという。現在、故宮ブランドの商品は文房具、コスメ、インテリアなど多岐にわたり、単なる土産品を超えて“文化ブランド”として確立している。故宮の理念は「文化を日常の中へ」。伝統と現代デザイン、職人技、デジタル発信を組み合わせ、文化の新しい形を生み出している。

2025年、故宮博物院は創立100周年を迎えた。来館者の多くが記念や贈り物として故宮グッズを手にするようになり、「故宮からの贈り物」という言葉が象徴的になった。かつて皇帝だけの空間だった紫禁城が、今では多くの人の生活に息づいている。故宮の文化商品は、歴史と現代を結ぶ架け橋として新たな命を得ている。(c)CNS/JCM/AFPBB News