中国で「睡眠経済」が台頭
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【10月6日 CNS】中国華北平原の河北省(Hebei)邢台市(Xingtai)では、「酸棗仁(サンソウニン)」と呼ばれる伝統的な生薬がかつてないほどの好況を迎えている。2019年から現在までに、酸棗仁の主要産地での価格は1キロあたり約200元(約4146円)から最高1300元(約2万6952円)を超えるまでに高騰した。「東洋の眠りの果実」とも呼ばれるこの小さな種子は、「心を養い安眠を促し、発汗を抑えて潤いを与える」とされる効能から、中国で新たな人気消費材となっている。酸棗仁の産地として知られる邢台では、関連産業の年間総生産額がすでに500億元(約1兆366億円)を超えた。価格と市場規模が年々拡大している酸棗仁は、中国で膨張を続ける「睡眠経済」の一端に過ぎない。予測によると、2030年までに中国の睡眠健康市場は1兆元(約20兆7329億円)規模を突破するとみられている。
中国睡眠研究会が発表した「2025年中国睡眠健康調査報告」によれば、中国の18歳以上の人々の48.5%が睡眠に関する悩みを抱えており、3億人以上が睡眠障害を持つとされる。睡眠経済の市場ポテンシャルの大きさがうかがえる。中国社会科学文献出版社が刊行した「中国睡眠研究報告2025」でも、中国の睡眠健康産業は2016年の2616.3億元(約5兆4243億円)から2023年には約5000億元(約10兆3664億円)へ拡大、2030年には1兆元を突破すると予測されている。
近年、伝統的な睡眠補助剤であるメラトニンなどの健康食品も中国で販売が急増している。中研普華産業研究院の報告によると、2024年の中国メラトニン市場規模は15.4億元(約319億2866万円)に達した。2024年末の医薬品購入プラットフォームのデータでは、メラトニン錠剤の販売が大きく伸び、購入の中心は「90後(1990年代生まれ)」や「00後(2000年代生まれ)」で、全体の7割以上を占めた。若い消費者に合わせ、多くの中国企業はメラトニン製品を従来の錠剤からグミやスプレーなどの「気分を整えるおやつ」に転換している。
さらに、北京同仁堂(Tongrentang)、杭州方回春堂、蘇州雷允上といった老舗の中国医薬ブランドも「睡眠経済」に参入し、酸棗仁や茯苓(ブクリョウ)、百合など安眠効果のある生薬を使った膏方(ペースト状になった漢方薬)や日常飲料を販売している。これらの商品は「医食同源」の理念を掲げ、サムズクラブ(Sam's Club)といった高級スーパーでも取り扱われている。
睡眠サポートをうたった食品も人気を集めている。都市部の中産階級をターゲットとするスーパー「盒馬鮮生(Hema Xiansheng)」は「おやすみ牛乳」を発売し、メラトニン含有量は通常の牛乳の10倍とうたっている。中国のヨーグルト専門店・Blueglassは「おやすみヨーグルト」を打ち出し、γ-アミノ酪酸などの睡眠を助ける成分を豊富に含み、280ミリリットルで45元(約932円)と高価格で販売している。
中国のミドル〜ハイクラスのホテルチェーンの一つである亞朵Atourも近年「睡眠経済」に参入し、高品質な寝具の開発に注力している。2024年には寝具ブランド「亞朵星球」が枕380万個、夏用掛け布団77万枚を販売。2025年第2四半期には小売収入が全売上の39%を占めた。
また、中国の家具市場が全面的にスマート化する中、寝具も例外ではない。健康睡眠が運営する高級寝具ブランドの慕思(DeRUCCI)が発売した新型スマートマットレスは、華為技術(ファーウェイ、Huawei)の「鴻蒙システム」を導入し、「左右6区間の独立制御」を実現。エリアごとに硬さを設定でき、利用者の体格や部位ごとの睡眠ニーズに合わせられる。利用者がいびきをかくと自動的に角度を調整し、呼吸の質を改善する。睡眠後はスマホアプリで睡眠状況を解析し、改善に向けたアドバイスも提示する。
さらに、中国市場では睡眠をモニタリングするスマートバンド、いびき防止の呼吸補助機器、アロマを使った睡眠体験施設、睡眠サポートアプリなども人気を博しており、不眠を背景とする消費拡大が新たな市場の成長分野となっている。(c)CNS/JCM/AFPBB News