【10月5日  People’s Daily】40キロの距離を車で移動すると1時間かかるが、飛行自動車ならわずか20分だ。今や飛行自動車がいよいよ現実のものとなりつつある。

中国民用航空局の予測によると、2035年までに中国の低空経済市場規模は3兆5000億元(約72兆3800億円)に達する見込みだ。この兆単位の市場を前に、中国の主要自動車メーカー各社は相次いで新分野への参入を進めている。

自動車メーカーが飛行自動車産業に参入する利点は、サプライチェーンに一定の共通点を持ち、中核技術の一部を流用できることにある。現在、複数のメーカーが製品開発を終え、試験飛行段階に入っている。
 
広汽集団は6月12日、量産型飛行自動車「高域AirCab(GOVY AirCab)」を世界初公開し、予約注文の受付を正式に開始した。「高域AirCab」はマルチローター式の飛行自動車で、上下分離型の陸空二層構造を採用し、上部が飛行体、下部が自動車となっている。普段は普通の自動車のようにスマート運転が可能で、必要に応じてワンタッチで飛行モードに切り替えられる。

飛行自動車には、「高域AirCab」のような上下分離型のほかに、陸空2モジュール合体分離型も存在する。例えば、小鵬匯天(Xpeng Aeroht)の「陸地航母」飛行自動車は、陸上走行体と飛行体が合体した構造で、飛行の際には飛行体モジュールが合体構造から分離される仕組みになっている。

そしてこれらは、いずれもeVTOL(電気垂直離着陸機)に分類され、現在国内外の自動車メーカーが開発を進める飛行自動車の主流である。

専門家の分析によると、eVTOL形態が選択される理由の一つは、長大な滑走路を必要とせず垂直離着陸ポートから離陸できることだ。もう一つは、燃料タンク、エンジン、プロペラを、バッテリー、モーター、ローターに置き換え、安全冗長性を備えた分散型動力システム、自動衝突回避、自律運転、緊急時復旧技術などを採用し、高い安全性と信頼性を有することが挙げられる。

さらに、この種の製品は総コストが比較的低く、観光用途や物流配送だけでなく、緊急救援などの場面でも適用可能であることも利点である。

現在、複数メーカーの飛行自動車が試験飛行段階に入っている。先日、「陸地航母」の飛行体生産許可証申請が民用航空中南地区管理局に正式に受理され、今年末までの型式証明取得が見込まれている。小鵬匯天の飛行自動車スマート生産基地は今年第3四半期の竣工予定で、26年の量産納入を計画している。

吉利集団(Geely Holding Group)傘下の無人機・飛行自動車の開発企業「沃飛長空科技(Aerofugia)」は有人飛行試験段階に入り、26年までの型式証明取得を目指している。奇瑞汽車(CHERY)の三体式複合翼飛行自動車はすでに試験飛行に成功している。長安汽車(Changan Automobile)は億航智能技術(EHang Intelligent Technology)との提携契約を結び、飛行自動車の研究開発と商業化を共同で推進している。

自動車メーカー各社が低空分野に相次いで参入するのは、その広大な市場の可能性を見込んでいるためだ。「中国低空経済連盟」が発表した「低空経済発展趨勢報告」では、中国主要都市の航空交通ネットワークと地上飛行サービス施設が整備されるにつれ、eVTOLの商業化も加速し、市場価格は次第に低下すると予測している。30年までに中国のeVTOL市場保有台数は10万台を突破する見込みだという。

新分野への転換における自動車メーカーの強みはどこにあるのか。

「中国汽車技術研究中心」の安鉄成(An TieCheng)董事長は「新エネルギー低空飛行体が低空経済発展の中核的な担い手として、スマートコネクテッド新エネルギー車と顕著な技術シナジー効果を有し、両者は研究開発体系、製造プロセス、応用シーンなどの面で重なり合うものがある」と指摘する。

技術面では、新エネルギー車の「三電システム」(バッテリー・モーター・コントローラー)とeVTOL動力システムに直接的な技術転用が可能だ。サプライチェーン面では、eVTOL部品の約70%が新エネルギー車と共通しており、自動車メーカーの大規模生産経験が直接低空飛行体製造に活用できる。

インフラ面では、新エネルギー車用の充電スタンドやエネルギー貯蔵ステーションをeVTOLの高圧急速充電のニーズに対応できるようアップグレードが可能だ。また、自動車の駐車場や物流拠点は低空飛行体の離着陸点やメンテナンスセンターに改造できる。

さらに、自動車産業のインテリジェント交通システムと低空経済の空域管理システムは技術的に同源性を有している。

小鵬匯天の関係者の話によると、低空飛行はまず「限定シーン」(都市から離れた郊外、山岳峡谷湖沼などの観光地、専門飛行キャンプなど)から開始し、その後「一般シーン」(都市間交通、都市と空港・駅間の交通など)へと段階的に移行し、最終的に真のドア・ツー・ドア、エンド・ツー・エンドの「都市3D立体交通」を実現させるとしている。

同社の「陸地航母」は現在までに4000台超えの予約注文が入り、200か所以上の協力キャンプと契約を締結しているという。

安董事長は「低空経済の前途は洋々だが、キーテクノロジー、製品性能、支援施設などの面で依然として弱点がある。次のステップでは、人工知能や新エネルギーなど新興技術と低空飛行体との融合を加速し、動力・安全などの航空適性に関わるキーテクノロジーのボトルネックを全力で突破し、新エネルギー低空飛行体の産業化の『ラストワンマイル』を乗り越えることが必要だ」と強調している。(c)People’s Daily /AFPBB News