不思議な薄い膜が起こしたブレークスルー・中国
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【9月25日 People’s Daily】信じられないかもしれないが、1枚の不思議な薄膜をスマートフォンに貼るだけで、まるで電力不要の「エアコン」を使ったかのように、摂氏5~10度くらい温度が下がる。これを使えば電子製品の寿命と安定性を40%以上向上させることができる。
蘇州高新区にある「墨光新能科技(MG Energy)(蘇州)」の製造現場は忙しくも整然と稼働していた。強化ガラスが一枚一枚、自動化生産ラインを流れ、洗浄、フィルムの貼り付けと剥離、傘状の治具を装着する工程を経た後、イオンガンによって機能性材料が気化され、原子一層分の厚さで強化ガラス上に緻密かつ極薄の膜層が形成されていく。これが同社の主力製品「放射冷却膜」だ。
現在すでに小米科技(シャオミ、Xiaomi)とアップルの2機種のスマートフォンに採用され、さらに別の国産スマホブランド2社へも納品中である。
これは研究室から生まれた科学技術の成果だ。南京大学(Nanjing University)エネルギー・資源学院の院長・朱嘉(Zhu Jia)教授は、チームを率いて10年の歳月をかけ研究に取り組み、2019年に光熱制御分野でブレークスルーを達成した。
チームメンバーの一人・南京大学の朱斌(Zhu Bin)准教授は「物体の温度をより低くするためには、そのエネルギーをより低くする必要がある。すなわち、取り込むエネルギー項目を減らし、放射するエネルギー項目を増やす必要がある」と説明する。
チームは「放射冷却」の原理に基づき、分子構造、微細構造、サイズと形状を制御し、「太陽光波長域」では低い吸収率を保ち、「『大気の窓』波長域(大気に遮られず宇宙空間に逃げていける特定の波長域)」では高い放射率を実現する新素材をゼロから開発した。そのような特定の電磁波形態で熱を放射することで、エネルギー消費を伴わない「持続的な冷却」を実現させた。
21年には、小米科技がこの成果に注目し、研究所を訪れ、電子製品の冷却への応用を希望した。
なぜ「スマホの冷却」がそれほど重要なのか?それは、スマホの集積度の向上やAIチップの搭載に伴い、消費電力がますます増大しており、使用時の発熱、動作の重さ、自動シャットダウンなどの問題を軽減するため、放熱機能は日増しに重要になっているためだ。
研究室の実験では、サンプルの温度測定結果に顕著な効果が確認され、チームには産業化への大きな自信が生まれた。22年、大学の仲介により、チームは蘇州高新区に「墨光新能科技(蘇州)」を設立し、この技術を研究室から表に出し、産業界での実用化に力を注ぎ始めた。
しかし「本棚から店頭へ出すこと」すなわち「サンプルから実際の商品にすること」は、想像以上に複雑なことだった。
「研究室では、冷却という単一指標のみを考慮すれば良かった。しかし市場投入の段階では、顧客の実際のニーズを出発点として、120以上もの指標を総合的に調整しなければならなかった」、朱斌准教授は率直にそう振り返る。「長年の技術蓄積があるので、調整の成果は2か月以内に完了できると思っていたが、実際には、冷却性能、安定性、コストの三要素を同時に満たすのは容易なことではなく、ほぼ『不可能な三角関係』になってしまった」と、当時の苦労を吐露した。
どうすればこの「三角関係」のバランスが実現するのか? チームは3段階に分けて取り組んだ。まず、同社の「中間試験生産ライン(パイロットライン)」に戻り、朱嘉院長がチームを率いて技術面からハードコア技術をさらに前進させた。同時に、大学と蘇州高新区の支援の下、学校と企業の連合研究室が設置され、材料学、光学、高分子などの分野の大学内外の専門家やスマホメーカーが共同で技術課題の解決や設計案の作成に当たった。
従来の接着剤貼付方法を改良して、接着剤の安定性という難題を克服した。さらに、自動化プロセスによる生産能力増強と従来の材料の配合比の改良により、良品率を50~90%大幅に向上させ、生産コストの削減に成功した。
半年間で40回以上の改良を経て、23年には「冷却性能、安定性、低コスト」を同時に満たす「放射冷却膜」が、小米科技の新型スマホに採用され、市場で好評を博し、産業化への重要な一歩を踏み出した。
朱斌准教授は「現在、我々はすでに3種類の生産ラインを開拓し、着実に発展と成長の道を歩んでいる。4つのスマホブランドと提携しており、電子製品向け『放射冷却膜』の受注額は7000万元(約14億5250万円)を超えている。また、主に建築、コールドチェーン、太陽光発電に使われる『放射冷却塗料』の受注額は3000万元(約6億2250万円)、日焼け防止用の涼感衣類、帽子、テントに使用可能な『放射冷却繊維織物』は、現在中間試験生産段階にあり、まもなく量産開始予定だ。これら3つの主要生産ラインは、建築、繊維、電子など全体で数兆元(数十兆円)規模にもなる市場をカバーし、航空宇宙などさらなる応用分野への展開も計画中である。今年の売上額は1億元(約20億7500万円)を超える見込みだ」と語った。
特筆すべきは、消費分野以外でも、この「ブラックテクノロジー(先端技術)」が「生態環境保護」などの分野で応用可能な点だ。
同社は22年から、放射冷却技術を、四川省(Sichuan)の「達古氷河保護プロジェクト」に投入している。「現在、試験実施地区の氷河の融解速度は80%減速しており、3~5年後には氷河の正の成長(質量増加)が実現する見込みだ」、朱斌准教授はその成果をこのように紹介した。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews