【9月6日 東方新報】若者の間で、読書のスタイルが大きく変化している。オーディオブックを聴く「耳の読書」、短時間で内容を把握できる動画での「見る読書」、古本探しやカフェと組み合わせたソーシャル読書など、多様化した読書法が人気だ。

北京市内の地下鉄で通勤中の朱微(Zhu Wei)さんは、イヤホンを耳に入れ微信(ウィーチャット、WeChat)「微信読書」アプリで人気小説『三体(英題:The Three-Body Problem)』のオーディオブックを再生する。「通勤の1時間で目は休めながら耳で読書できます。2週間で長編も聴き終えられる」と話す。忙しい若者にとって、すきま時間を活用できるオーディオブックは効率的な読書ツールとなっている。

最近の調査では、7割以上の若者が紙の本を購入しつつ、半数は電子書籍やオーディオブックも利用している。読書の場も、公共図書館や書店に加え、ブックマーケットや読書会、街中の特色あるカフェ併設書店などに広がっている。

■都市に広がる新しい読書空間

国家図書館の古典籍閲覧エリアで読書する大学院生・陳政婷(Chen Zhengting)さんは「紙の質感や墨の香り、古書をめくる音に包まれると、当時の時代に入り込んだような感覚になる」と語る。一方、週末には川沿いのガラス張りの書店でコーヒー片手に小説を楽しみ、「読書がリラックスの時間になる」と言う。

北京市・三里屯の書店「多抓魚」では、友人同士で本を選び、カフェスペースで語り合う光景も見られる。若者の間で、読書は単なる個人活動から、気軽な交流を伴う「軽い社交」の場にも変わりつつある。

近年は、都市書房(都市型小型図書館)や小規模なパブリック読書スペースが各地に増加している。北京市朝陽区の「良閲都市書房」では、緑に囲まれた空間に読書席やカフェ、展示スペースを備え、若者が学習や仕事、イベント参加に利用している。

■デジタル読書と動画コンテンツが主流に

デジタル文化の浸透により、電子書籍やオーディオブック、動画解説など、多様な形の読書が普及している。中国音像・デジタル出版協会によると、2024年の国内デジタル読書ユーザーは6.7億人に達し、業界収益は前年比16%増の661億元(約1兆3506億円)となった。

会社員の韓晨雪(Han Chenxue)さんは中国の大手オーディオ配信プラットフォーム「蜻蜓FM」で武侠小説や推理作品を愛聴している。「朗読というよりラジオドラマのようで、臨場感があります」と話す。短時間で概要を把握する動画や、文学作品を深掘りする長尺解説動画も人気で、オンラインの文学系クリエイターは若者の読書体験を補完している。

■深い文字読書の価値も忘れずに

中国で上海市を舞台にした人気ドラマ『繁花(英題:Blossoms Shanghai)』の原作は、放送終了後も書店で売れ続けている。映像作品が原作への関心を高め、読書熱を後押しする現象も広がる。また、歴史や経済を漫画形式で学べる書籍も若者の支持を集め、知識を「可視化」した学習スタイルが浸透している。

一方で、デジタル読書の気軽さが「断片的・浅い読書」に偏る懸念もある。専門家は「デジタルの利便性を生かしながら、深い読書や文字による思考の価値を守ることが重要」と指摘する。

若者の「多様化読書」は、都市生活に新たな文化的余白をもたらすと同時に、デジタルと深い文字読書の両立が今後の課題となりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News