【7月12日 Peopleʼs Daily】上海市在住の周(Zhou)さん(63歳)は昨年3月、通院先の病院で検査用血液を採取した。「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」との3度目の闘病が始まったのだ。

 今回は、これまでの2回の化学療法と標的療法でなく、腫瘍治療の新たな精密標的療法「キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor,CAR)-T細胞免疫療法)」(略称:CAR-T)が選択された。

 腫瘍治療と聞くと、多くの人は化学療法や標的療法を連想する。これらはどちらも腫瘍そのものを標的とした治療法だ。一方、CAR-Tは考え方を転換し、「なぜ人はがんになるのか」という根本的な問いから解決策を探る療法だ。

 T細胞(Tリンパ球)は、人体の白血球の一種で、感染や腫瘍などの疾患が発生した際、体内の免疫システムの一員として、疾患と戦う細胞だ。

 このT細胞を強化し、良い細胞が悪い細胞を打倒して、体内の主導権を取り戻すことで、がんを撃退することができる。

 この治療法は、T細胞に「CAR(キメラ抗原受容体)」という人工の受容体を組み込み、がん細胞をさらに正確に認識し攻撃できるようにするものだ。「CAR」はT細胞に取り付けられる特殊な「強化装置」ともいえる。

 周さんの血液から採取された「T細胞」は、細胞免疫療法企業「上海薬明巨諾生物科技(JW Therapeutics)」の蘇州工場で、特別な「兵役訓練」を受けていた。

「原料(血液)」が工場に到着した後、最初のステップは洗浄と精製(純化)だ。T細胞を分離した後、摂氏マイナス130度の液体窒素で凍結保存して、T細胞の原始活性を維持する。使用時にはT細胞を活性化し、ウイルスベクターを用いてT細胞に「CAR」を組み込む。

 この段階で、周さんの元のT細胞は「スーパーT細胞」へと変身するが、細胞単独では効力が発揮できない。バイオリアクターで培養し、少なくとも1億個に増殖させ、「スーパーT細胞軍団」を形成する必要がある。

 その後、洗浄、濃縮、検査を経て、周さん専用の「抗がん剤」は、蘇州工場から出荷された。

 採血から3週間後、周さんは病院から「投与可能!」の連絡を受けた。冷凍物流チェーンで輸送された「CAR-T細胞」は、病院で蘇生され、周さんの体内に注入された。数億の「スーパーT細胞」は、体内に注入されるとすぐに活動を始めた。この過程で、周さんは軽度の発熱を感じたが、これは腫瘍細胞が排除される際にサイトカイン(細胞因子)が放出されることによって生じたものだ。また周さんは、体にあったリンパの腫れが、徐々に柔らかくなり、次第に小さくなっていくのを実感した。

 注入から1か月後、周さんは再診を受け、医師の診断で「完全寛解(がんの兆候が見られない状態)」と判断された。今後、これらのスーパーT細胞は体内にとどまり、周さんの体を守り続けることになる。

「薬明巨諾」の臨床研究開発執行総監の夏震(Xia Zhen)氏は「現在、我々は研究を積極的に進めている。わが社の製品がより多くの人びとに恩恵をもたらすよう尽力している」と話す。

 現在、全世界でCAR-T技術に基づく製品が11種類以上承認されており「再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の患者が治療を受けた結果、約80%の患者に治療効果(全奏効率・ORR)が認められた。そして40%~60%の患者が5年以上の長期生存を達成し、臨床的治癒の実現が期待できる段階にまで到達した。

 現在、上海市は未来産業の育成に積極的に取り組み、それに関する政策を施行している。市の政策支援を受け、細胞医薬品分野のイノベーションがさらに活性化され、新薬の普及率の向上が期待されている。(c)People's Daily /AFPBB News