【7月1日 CNS】外食のデリバリーを頼んだり、ミルクティーを飲んだり、ライドシェアを呼んだり……こうしたごく普通の中国人の日常が、今やブラジルでも見慣れた光景になりつつある。

 中国から1万8000キロ離れたこの中南米の大国において、中国企業は続々と進出を強化し、「中国人の一日」をブラジルで再現しようとしている。

■なぜブラジルなのか?

 それは、中国にとって「十分に大きく、かつ新しい消費市場」だからである。

 ラテンアメリカ最大の経済大国であるブラジルは、人口が2億人を超え、15~64歳の労働人口が約7割を占める。2024年の一人当たりGDPは約1万ドル(約144万8700円)。まさに「大きな器で活力に満ちた」市場といえる。

 さらに、スマホ依存度が高い国としても知られ、インターネットユーザーは人口の86.2%に達し、1人あたりのスマホ使用時間は1日5時間を超える。こうした環境において、中国のインターネット企業が持つ高度なアルゴリズムと運営ノウハウは、大きな強みになる。

 中国商務部国際貿易経済協力研究院の研究員・白明(Bai Ming)氏は、中国新聞社(CNS)の「三里河」の取材に対し「ブラジル市場には成長余地があり、中国の産業と高い補完性を持ち、両国の友好関係は非常に大きな可能性を秘めている」と述べている。

■中国企業の進出と融合

 現在、多くの中国テック企業がブラジルで現地オペレーションチームの構築を急いでいる。たとえば、美団(Meituan)傘下のフードデリバリーサービス「Keeta」は、今後5年間で10億ドル(約1448億7000万円)をブラジルに投資する計画を発表。即時配送ネットワークの整備に加えて、地元パートナーにデジタル運営ツールを提供する方針だ。これは単なる資本投資ではなく、技術エコシステムの深い融合を意味する。

■中国産業と高い補完性を持つ市場

 エネルギーと製造の分野において、ブラジルと中国の産業アップグレードの方向性は高い一致を見せている。

 あるブラジルのエネルギー市場に詳しい関係者は「ブラジルには多数の風力・太陽光プロジェクトがあるが、開発人材や設備が不足している。中国は再生可能エネルギー技術や人材において明らかな強みがあり、ブラジルのニーズに合致している」と語っている。

 現在、ブラジルの電力の85%以上が再生可能エネルギーによって賄われており、太陽光や風力の導入が急速に進んでいる。2050年に向けた低炭素経済への移行に向けて、ブラジル政府は「国家エネルギー計画2050」を策定しており、中国の「新三品(新エネルギー車、リチウム電池、太陽光製品)」の海外展開ニーズと見事に一致している。

 近年、エネルギー分野では中国電力建設集団(Power Construction Corporation of China)や中国広核集団(CGN)などの企業が相次いでブラジルに太陽光発電プロジェクトを建設し、中国の技術を現地に導入している。

 製造業では、長城汽車(Great Wall Motor)のブラジル工場が2025年7月に生産開始を予定しており、研究開発センターや製造拠点の構築も視野に入れている。比亜迪汽車(BYD)、奇瑞汽車(Chery Automobile)といった自動車メーカーも、世界第6位の自動車市場であるブラジルへの投資を加速させている。

■「進出」から「融合」へ

 中国企業のブラジル進出は、単なる「海外進出」にとどまらず、現地社会への「融合」も目指している。

 今回の投資ブームの背景には、中国とブラジルの友好関係の深化と政策面での支援がある。2024年5月10日から14日にかけて、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ(Luiz Inacio Lula da Silva)大統領が中国を6度目の訪問。ルラ大統領は「ブラジル企業が中国へ行き、中国企業がブラジルへ来る。共に協力し、ウィンウィンを実現するべきだ」と述べた。訪問中には、中国製の新エネルギー車に自ら乗り込み、「中国のスマート製造」の魅力を体感したという。

 実際、すでに多くの中国企業が、スマート物流システム、デジタル化自動車工場、クリーンエネルギー基地といった形で、ブラジル経済の基盤部分に深く関わっており、単なる「商品販売者」から「エコシステムの構築者」へとその役割を変えてきている。

■ブラジルは「跳び板」であり「試金石」

 業界では、ブラジルは中国企業にとってラテンアメリカ全体への「上陸拠点」であると同時に、現地融合力を試す「試金石」でもあるという見方が広がっている。

 中国企業はブラジルを起点にラテンアメリカ市場に進出することで、複数拠点から成る世界市場ネットワークを構築すると同時に、優れた製品と技術で中南米の発展にも貢献している。

「心が通えば、遠くても隣人」――中国企業のブラジルでの実践は、国際化とは単に「中国のやり方を持ち込む」ことではなく、「世界と共に新たなスタンダードを築く」ことであると示している。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News