「片腕の船長」徐京坤:到達できない岸はない・中国
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【6月28日 Peopleʼs Daily】単独無寄港無補給世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ(Vendee Globe)」は「航海界のエベレスト」と称され、参加者は単独で帆船を操縦し、地球を一周する航海を完遂する必要がある。途中寄港できず、外部支援や補給も禁止されている。1989年の創設以来24年まで、完走者はわずか84人しかいなかった。
この大会に24年11月、徐京坤(Xu Jingkun)氏が出場した。その後、今年フランスの現地時間で2月18日午前8時8分、彼はついに99日間の航海を乗り切り、このレースの100人目の完走者となった。そして彼は、中国人で初めての完走を果たした船長となった。
それは暴風雨が荒れ狂う真夜中だった。
ゴールまで残り5日となった北大西洋で、徐氏のヨット「海口号(Haikou)」は波に押し流され、発電機も完全に壊れ、残る電力は数時間分しかなかった。ナビゲーションと通信機能を失った「海口号」は、真っ暗闇の海の中で風に吹かれた木の葉のように漂い続けた。
その時、彼に恐怖や迷いを抱く余裕はなかった。しかし生存の欲望と夢を叶える願望が彼に「リタイアは答えじゃない。必ず何とか解決しなければ」と告げていた。
発電機の修理は何度試しても失敗に終わり、電力は次第に尽きていった。他の船は次々とレースを断念したが、彼は無理やりに自分を冷静に保つよう努めた。その時、船尾に放置してあった壊れた水力発電機を思い出した。しかし取り付けには船外の作業が必要で、少しでも油断すれば巨大な波に巻き込まれる危険があった。
揺れ動く船内で、彼は這うように船尾へと進んだ。氷のように冷たい海水が背中を打ち付け、修理操作のたびに苦戦を強いられた。夜明け頃になってやっと、電力が回復した「ブーン」という音が鳴り、彼は甲板に崩れ落ちた。
彼は東の空に浮かぶ魚の腹のような白さを眺めながら、波の音を聞いていた。彼にはそれが「運命の賛歌」のように響いた。
彼は海の上で99日間を過ごした。孤独は、実は嵐よりもなお過酷だった。湿った船室で、事前にダウンロードしていた小説や音楽で時間を潰した。孤独の中にも美しさを見つけ、波の囁きに耳を傾け、日の出と日没の壮麗さを楽しむようになった。海上の光や色や香りなど、自然の小さな変化の一つひとつが彼を喜ばせた。太陽の光が雲間から差し込み、絹のような海面が輝くたびに、彼は幸福を感じた。
4年前、フランスで開催された「ヴァンデ・グローブ」組織委員会第1回会議で、彼は「身体に障害のある選手が参加できるのか否か」という議論を黙って聞いていた。その当時この話題は業界で大きな議論を呼んでいた。
そして今、左腕に障害を抱える彼は、2万7600海里(約5万1115キロ)を超える航路を完走し、ゴールで五星紅旗を翻らせることに成功した。
完走率60パーセントに満たない歴代レースで、初参加ながら完走を果たし、これによって「障害者が出航する資格があるかどうか」を疑問視する声は消えたという。
「あなたはルールを変えた!」、ある人は感嘆の声を上げた。
これに対して徐氏は「いや、私はただ証明して見せただけ。マストの下に障害がある生命は無いことを」と答えるのみだと言う。
スタートからゴールまで、地球を一周する99日間を、彼は走り抜いた。しかし、「ヴァンデ・グローブ」出場にたどり着く前に、彼は18年間を費やしている。
そしてとうとう、今年の2月18日、「ヴァンデ・グローブ」ノンストップ・ワールド・セーリングレースの「完走者クラブ」に中国人の名前が刻まれた。
「彼らは成し遂げた!」世界は中国の航海力を目撃した。
「支援してくれた皆さんに感謝する。今回は30位だったが、ゴールに近づいた時に岸辺から押し寄せた熱狂の波は、私のもうろうとした頭を、一瞬、まるで自分がチャンピオンになったかような錯覚に陥らせた。多くのフランスの小学生が私の物語を聞き、左手に靴下を被せて『片腕の船長の一日』を体験したという。小学生たちは歪んだ中国文字で書いた横断幕を掲げて叫んでくれた。『「徐さんは私たちの船長だ!』と」、徐氏はその日の感激をこう語った。
「子供たちの目の中の光は、赤道の太陽よりも灼熱だった。彼らは私に、若い頃初めて帆船の索具(さくぐ)に触れた時に右手の掌から滲み出た汗と血を思い出させた。自分に感謝している。決して諦めなかったからだ。私は自分自身に勝つことができた」、徐氏はこう振り返る。
徐氏は「海は決して平坦な道を約束しない。しかし、勇者には常にほうびを与える。もし私が『スポーツ精神とは何か』と問われたなら、それは船の帆を縫い直した歪んだ針目の跡に、電力が尽きる直前の最後の一勝負に、そして『不可能』が打ち砕かれる瞬間、深海を震わせるように響く、鯨の歌のような歓びの声に宿るものだと答えるだろう」と話す。
そして徐氏は「これが、大海が教えてくれた真理であり、夢を追う全ての人びとに手渡したい『たいまつ』だ。到達できない岸はない。ただ、帆を揚げない者だけがいる」と締めくくった。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews