【6月20日 Peopleʼs Daily】水素燃料電池で動くトレーラーが港で整然と作業し、水素エネルギーの公共バスが街中を走る。「水素と太陽光の相互補完型」スマートマイクログリッドが、新しい電力供給源となっている。

 製造業の基盤が堅固な江蘇省(Jiangsu)張家港市(Zhangjiagang)では、水素エネルギーの「製造・貯蔵・輸送・利用」を一体化した産業チェーンが形成され、それがさらに拡大しつつある。

 水素エネルギーは、クリーンなエネルギーとして、交通、化学工業など多くの分野で活用され、ガソリン、ディーゼル、石炭などの化石燃料の消費を削減する一方、大規模で長い周期の季節を越えたエネルギー貯蔵手段として電力需給の調整にも貢献している。

 中国工業・情報化部など政府8部門は今年2月、「新型エネルギー貯蔵製造業の高品質発展行動計画」を発表し、水素貯蔵の超長時間の貯蔵技術の開発を、適度な先行投資で推進する方針を明確にした。

 日常生活の中で最も身近な水素エネルギーの応用シーンは交通運輸の分野だ。水素エネルギーはエネルギー密度が高く、長距離輸送に優れており、公共バス交通、都市配送、冷蔵チェーン輸送、幹線物流などの分野で利用が研究されている。

 張家港経済技術開発区の「嘉化水素充填ステーション」では、毎日1000キログラムの水素供給が可能だ。

 このステーションに、金龍汽車(Kinglong Motor Group)製の水素燃料電池で走る公共バスが燃料の水素を充填する姿があった。バスの運転手・陳周華(Chen Zhouhua)さんの話によると、バスの8つの水素タンクを満タンにするには26キロの水素が必要で、20分ほど時間がかかる。満タン状態では400キロの走行が可能で、1~2日に1回の水素充填が必要だ。

 現地の公共バス運営会社・張家港市港城公共交通の張成剣(Zhang Chengjian)総経理は、水素燃料の効果について次のような試算を示した。水素燃料バス1台は、従来の化石燃料車に比べ、年間約55トンの二酸化炭素排出量を削減できる。張家港の水素燃料バスは6年間で73台に増加し、昨年末までの累計走行距離は1429万4800キロメートルに達した。これによる二酸化炭素排出量の累計削減量は1万300トンを超えたという。

 バス以外にも、張家港の港湾施設や街中では、水素燃料の港湾専用トレーラー5台、水素燃料の大型トラック65台、水素燃料の電動アシスト自転車500台以上が走行している。

 江蘇省は先日「水素エネルギー産業の高品質発展を推進する行動計画(2025~2030年)」を発表し、2030年までに清潔で低炭素、安全で効率的な水素エネルギーの供給・利用体系の基本的な形成を目標に掲げた。また、100か所以上の水素充填ステーションを建設し、1万台以上の燃料電池自動車の普及を目指すとしている。

 関係者の話によると、近年、山東省(Shandong)、四川省(Sichuan)、内モンゴル自治区(Inner Mongolia Autonomous Region)、吉林省(Jilin)、河南省(Henan)など複数の省が、相次いで水素自動車に関する政策を発表した。高速道路料金の免除や道路利用制限の緩和など、水素利用のコスト削減を促進する措置を講じ、水素自動車の試験運行を促進する効果が上がっている。

 水素の製造は水素エネルギー産業チェーンの上流(第1セクション)だ。化石燃料の工業の副産物から得られる水素が現在最も広く利用されているが、再生可能エネルギー発電から製造される「グリーン水素」が今後の主流となる見込みだ。24年6月現在、中国の再生可能エネルギーによる水素製造能力は年間10万トンを突破し、現在計画中および建設中の能力は年間約800万トンにもおよぶ。再生可能エネルギーを活用した水素製造の潜在力は巨大である。

 この産業チェーンの中流(第2セクション)は、貯蔵・輸送段階で、高圧気体輸送、液体輸送、パイプライン輸送などが含まれる。水素エネルギーの変換は、水素燃料電池や水素内燃機関などにより行われる。

 現在中国では、水素製造、貯蔵・輸送、水素充填、燃料電池、システム統合など主要な技術と製造プロセスは初歩的に掌握されており、水素の年間生産能力は4000万トンを超え、500か所以上の水素充填ステーションが建設され、大規模で完全な産業チェーンが形成されている。

 張家港市を例に取ると、同市には水素関連企業が40社以上あり、「製造」から「利用」までの水素産業の完全な生態系を構築している。「江蘇華昌化工」などの化学企業は、工業副産物の水素を年間20万トンの供給が可能だ。

 また「江蘇国富氫能」「江蘇鏵徳氫能」などの水素エネルギー機器製造企業、「江蘇清能動力科技」などの水素燃料電池関連企業は、産業チェーンの上流と下流を充実させている。

 張家港市重大プロジェクト推進センターの鄭遠(Zheng Yuan)主任の説明によると、張家港市は製造業の基盤が堅固で、特に豊富な高圧容器製造の経験を有していたので、水素エネルギー装備産業の発展の基盤を築くことができたという。また同市には複数のリチウムイオン電池のトップ企業が相次いで進出、水素燃料電池システムの中核となる材料を提供し、これが水素エネルギー産業の発展を支えている。この優位性を活かし、水素エネルギー産業の積極的な展開を進め、サプライチェーンの強化・補完・延長を図り、水素エネルギーの全面的な産業チェーンの生態系を構築しているという。

 この産業チェーンの年間生産額は100億元(約2000億円)を超えているとのことだ。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews