漢方薬「板藍根」が野菜に?中国で広がる「春を食す」ブーム
このニュースをシェア

【4月29日 CNS】中国と日本は古くから「時にあらざれば食わず」という伝統を持ち、それぞれの季節に旬のものを味わうことを大切にしてきた。現在はちょうど春野菜を楽しむ季節であり、爽やかな春野菜は、春に万物が芽吹き、生命がみなぎる気配を感じさせてくれる。同時に、春野菜は養生効果も兼ね備えているため、「春を食す」ことが近年中国で新たな消費トレンドとなっている。
中国経済網のデータによれば、今年の中国における春野菜の取引量は、前年同期比で103パーセント、前月比で55パーセント増加した。中国の生鮮食品プラットフォーム「盒马」では、春野菜の総売上が昨年比で70パーセント上昇している。中国のSNS「小紅書(Red)」では、春野菜に関連する投稿が数万件を超えている。
例年と比べて今年は、中国の消費者にとって春野菜の購入がより便利になり、品種の選択肢も増えた。中国の複数のEC生鮮プラットフォームにはさまざまな春野菜が並び、オンライン注文後、最短20分で自宅に配送される。プラットフォーム上での春野菜の価格は、多くが250グラムあたり10〜20元(約196〜393円)に設定されている。春野菜は決して安くないが、人びとの新しい味への熱意は価格に左右されない。
品種に関しては、伝統的な春筍(たけのこ)、蚕豆(そら豆)、香椿(中国特有の香りのある若芽)、槐花(カイカの花)といった「基本ラインナップ」に加え、中原地方の面条菜(若い野草の一種)、花椒芽(花椒の新芽)、蒲公英(たんぽぽ)、江南地方の枸杞芽(クコの新芽)、草頭(野草の一種)、芦蒿(川辺に生える香草)、雲南(Yunnan)地方の金雀花(エニシダ)、海菜花(カイサイカ)、石斛花(セッコク)など、各地の春野菜がオンラインで購入できる。なかでも、生鮮プラットフォーム「盒馬鮮生(Hema Xiansheng)」では桑の葉を販売する際、蚕の卵も一緒に付属しており、食べて楽しいだけでなく遊び心もある。
各地の春野菜には産地ごとの定番料理があり、現地のレシピに従えば間違いがない。たとえば、芦筍(アスパラガス)と腊肉(塩漬け干し肉)の炒め物、香椿(チャンチン)と卵の炒め物、馬蘭頭(香り高い野菜)と香干(乾燥豆腐)の和え物、白酒で炒めた草頭などが古くからの定番となっている。
ECプラットフォームで春野菜が売れ筋となる一方、レストランでも春野菜を売りにしたメニューが登場している。火鍋店では春野菜入りの肉団子、麺料理店では香椿を使った油かけ麺などが人気となっている。
今年の「春を食す」新たなトレンドの中で、最も注目を集めているのが新種の「板藍根青菜」だ。板藍根とは、中国で風邪予防や解熱に使われる漢方薬の一種であり、「板藍根冲剤(板藍根エキス剤)」という粉末タイプの薬剤として広く知られている。この板藍根を野菜として改良したものが、現在中国で人気となっている。中国の複数のEC生鮮プラットフォームでは、この野菜が並び、通常価格は1斤(約500グラム)あたり20元前後となっている。決して安くはないが、板藍根青菜は非常によく売れており、しばしば在庫切れが表示される。
この板藍根青菜は、学名を菘藍(タイセイ)とする板藍根と、食用の油菜(アブラナ)を交配して作られたものであり、登録品種名は「菘油1号」となっている。関連する実験では、この板蓝根青菜にも中薬の板藍根と同様に一定の抗ウイルス効果があることが示されている。
開発に関わった華中農業大学(Huazhong Agricultural University)植物科学技術学院の葛賢宏(Ge Xianhong)教授によれば、もともと油菜と板蓝根を交配させて油菜の病気(菌核病)への耐性を高めることが目的だった。しかし、研究の過程で思わぬ成果として、「菘油1号」という新種が生まれたという。注目すべきは、板藍根青菜が今年ようやく一般の視界に入ったとはいえ、実際にはすでに2年かけて品種改良が重ねられており、現在のものは生産量が増え、食感もより柔らかく甘みが増している点である。
板藍根青菜は鮮やかな緑色で、歯ごたえはシャキシャキして甘く、茹でても炒めても良く、火鍋にも適している。食べ方のバリエーションも豊富だ。この野菜は栄養価も高く、16種類のアミノ酸を含み、ビタミンC含有量は100グラムあたり98.4ミリに達している。成人の1日あたりのビタミンC推奨摂取量が約100ミリであることを考えると、非常に優れた栄養源といえる。盒馬鮮生全国春菜調達責任者の金漢涛(Jin Hantao)氏は、開発部門でも板藍根青菜を使った新商品を開発中であり、今後は青菜ジュースや包子(中国の点心のひとつ)などへの応用も試みる予定だと語った。
業界関係者によれば、現在食用可能な春野菜の品種は約500種類に上るという。豊富な野草とレシピ体系はいずれ出尽くすかもしれないが、それでもなお実験室の中に眠る「未知の新種」が存在し、さらなる開発が期待されている。(c)CNS/JCM/AFPBB News