【4月25日 CNS】「ネイルチップ、たったの9.9元(約193円)で送料無料?」――そんな驚きの価格のものから、高級ラインでは1万5999元(約31万2825円)の『千里江山図』モチーフ、2万8999元(約56万7011円)の『清明上河図』デザインまで。もはや高級手作りネイルチップは単なる装飾を超え、身につけられる文化の象徴になっている。

 ネイルチップは、ジェル状の接着剤を使ってあらかじめ作られたリアルな爪型チップを貼り付けるアイテム。ファッション性が高くデザインも豊富で、繰り返し着脱可能なことから、若者を中心にトレンドの的となっている。

 中国・江蘇省(Jiangsu)の東北部に位置する小さな県城・連雲港市(Lianyungang)東海県(Donghai)。この地域はかつて水晶や奇石で名を馳せたが、今ではその輝きがネイルチップの「宝石」となって世界の舞台で光を放っている。

 2024年、東海県の水晶産業は年間取引額460億元(約8994億2880万円)を突破し、その中でネイルチップの売上は80億元(約1564億2240万円)に達し、全国シェア1位を誇る。

 指先サイズの小さなネイルチップが、どうしてここまでの「ビッグビジネス」に成長したのか。

 答えの一端は、東海県の午前4〜5時、まだ陽も昇らぬ時間にすでに明かりの灯る越境ライブ配信拠点にある。

 ライブ配信ルームでは24時間体制で配信が続き、スタッフたちは黙々と、しかし秩序正しくそれぞれの業務に取り組んでいる。

 画面越しに流暢な英語でさまざまなネイルチップを紹介する配信者たち。サポートスタッフは続々届く注文を処理し、倉庫には世界各地へと発送される大量の荷物が山のように積み上がっている。

 2019年、東海水晶越境EC(電子商取引)センターが正式に設立され、サプライチェーン、物流、輸出手続き、外貨受け取り、ネット環境など10の主要課題をクリアし、EC中小企業の海外進出を全面的に支援する体制が整った。

 この仕組みを活かし、東海のネイルチップ業界も急成長を遂げた。初めは装飾用の爪素材の製造からスタートし、今では「原材料の生産、デザイン、製造販売」まで一貫した産業チェーンを確立している。

 2024年、東海県で生産されたネイルチップは年間8000万セットに達し、越境ECを通じて30以上の国・地域へ輸出された。世界中に広がる「指先の美」を求める消費者はすでに約2.5億人にのぼる。

 伝統文化の要素が指先サイズのチップに込められたとき、そこには驚くべき価値の転換が生まれている。数元で手に入ったネイルチップが、今や100倍、1000倍の価格で取引され、海外では「ミニチュアアート」として高く評価されているのだ。

 ネイリストや伝統工芸職人たちは、掐絲琺瑯(七宝焼きのような技法)、剪紙(切り絵)、浮彫(レリーフ)、点翠(細密な翠細工)などを、わずか数センチの空間に凝縮。一筆一筆に、千年の美意識への敬意が込められている。

 たとえば蘇州刺繍のネイルチップはシルクの糸で江南水墨画を再現し、敦煌モチーフのチップには金箔を使って壁画の神秘を表現。ミャオ族の銀細工スタイルのチップは民族の彫刻技術を受け継ぐ。それぞれが、伝統と現代の対話であり、指先に宿る「文化への自信」なのだ。

 この小さな産業は、地域の雇用にも大きく貢献している。

 東海県では地元の特産を生かしてネイルチップ産業を育成し、現在では製造・デザイン・販売を網羅する全産業チェーンを形成。従業者は5万人以上にのぼり、その8割以上は農村部に暮らす主婦や子育て中の女性たちだ。「もっとも就業が難しい人たち」が「家の近くで働ける」環境が整いつつある。

 従業者の多くは中卒・高卒程度の学歴だが、東海県は人材育成にも注力している。民間の職業訓練機関と連携して技術講座を行い、起業家向けの高度研修プログラムも実施。業界の専門家を招いてスキルアップを支援している。

 さらに、ネット就職説明会や夜市型の現地採用イベントなどを通じて、企業の人材確保にも積極的に取り組んでいる。

 農村女性のスキル向上、起業家の育成、そして高技能人材の導入。こうした取り組みは、地域経済の新たな可能性を示している。

 農村振興のカギは、産業と民生の接点を見つけ出すこと。そして、政府の役割は「舞台をつくり、労働者を主役にすること」にある。

 十本の指に咲く華。小さな町が、ネイルで天下をとる――そんな未来が、すでに始まっている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News