動画:夜明け前のバチカン美術館 番人が開ける歴史の鍵
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【3月7日 AFP】外はまだ暗い中、バチカン美術館の荘厳な扉が押し開けられた。ジャンニ・クレア氏の手には重い鍵束がある。
誰もいない廊下を巡りながら、世界有数の来館者を誇るギャラリーの扉を開けていく。「鍵は2797本。それぞれ1~5本のスペアがあるので、全部で1万本以上ある」。どの鍵がどの扉のものか、クレア氏はすべて覚えている。
らせん状のブラマンテ階段から「地図の間」へ。大理石の彫刻、古代ローマ美術、ルネサンス絵画の間を、クレア氏の影が縫うように進んでいく。
数時間後には、1400室ある美術館の部屋に何千人もの観光客が押し寄せるだろう。
だが今はまだ夜明け前。ラファエロやレオナルド・ダビンチ、カラバッジョの名画が並ぶホールの静寂をかき乱すのは、鍵がぶつかる金属音だけだ。
「ありとあらゆる場所が歴史の一部」というクレア氏が、懐中電灯で作品を照らす。
クレア氏は10人の「クラビジェロ(鍵の番人)」チームのリーダーだ。この10人で全長7キロのルートの鍵を毎朝晩、開け閉めする。「美術館全体は四つのゾーンに分かれている。どのクラビジェロも60~75の扉を開ける」
鍵の番人となって25年がたつ今も、歴史好きのクレア氏が驚くことばかりだという。「ここには常に学ぶべきことがある」
頑丈な鉄の輪に取り付けられた鍵束の中で、ひときわ目立つものがいくつかある。最も古い1771年からある鍵は、15センチほどの長さ。バチカン美術館の一角、ピオ・クレメンティーノ美術館のものだ。
黄色いラベルが付いたいくつかの鍵は、枢機卿たちによる教皇選挙(コンクラーベ)の際、議場となる部屋に至るまでの扉の鍵だ。
だがその中でも最も重要な鍵には唯一番号がない。議場となるシスティーナ礼拝堂と、ミケランジェロのフレスコ画で彩られたそのアーチ型の天井に入るための鍵だ。
この鍵は厳格なしきたりに従って毎晩封筒に入れ、封をする。その封筒は教皇の公式写真の隣にある狭い部屋に保管される。入り口は強化扉になっている。