ユネスコ文化遺産・海南島「黎族の錦」の新しいステージ
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【3月9日 Peopleʼs Daily】昨年12月5日、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)世界遺産無形文化遺産保護条約政府間委員会第19回通常会議の審査で、「黎族(Lizu)の伝統的な紡績、染色、紡織、刺繍技術」を「緊急保護が必要な無形文化遺産リスト」から「人類の無形文化遺産の代表リスト」への移行が決定された。
海南省(Hainan)五指山市(Wuzhishan)に住む90年代生まれの女性・譚朝艶(Tan Chaoyan)さんは、このニュースを聞いて、とても興奮した。
海南省の黎族の女性たちが綿や麻などの天然の繊維で衣服やその他の生活用品を織る伝統工芸とその織物は「黎族の錦」と呼ばれている。譚さんは、祖母と母の影響を受けて幼い頃からその伝統の織物技術を学んできた。
彼女は時折、「錦を織る若い人がどんどん減っているのよ」という母と祖母のため息を耳にした。「黎族の錦」を愛する譚さんは、大学を卒業した後にいろいろ思い悩んだ末、2015年に故郷に戻り、黎錦の伝承を専門にする工房を立ち上げようと決意した。
工房といっても、実際には10平方メートルにも満たない小さな小屋に、織機とミシン、そして譚さんと母親がいるだけだ。困難なスタートだったが、彼女が予想外だったのは、すぐに変化が訪れたことだ。無形文化遺産の継承と保護活動の進展に伴い、「黎族の錦」の伝承館や研修基地が雨後の筍のように次々と誕生した。
彼女は懸命に錦を織り、販売ルートを探し、提携について話し合った。「忙しくて、忙しくて、そのうち気がついたら、錦を愛する人がどんどん増えていて、村の中にも仲間になりたいという人が出てきました」と語る。
譚さんは19年に黎錦文化の会社を設立した。23年の売上高は70万元(約1504万円)を超えた。「この素晴らしい業績は、黎族の錦の保護活動の目覚ましい成果だけでなく、もう一つの理由があるのです」、彼女はこう言ってちょっと間を置いた。そして携帯電話を開いて記者にビデオを見せた。
それは、24年の「パリ・ファッションウィーク(PFW)」のイベントで、モデルたちが黎錦をアレンジした衣装を身にまとってランウェイを歩く映像だった。
黎錦のファッション性と国際化の推進のため、五指山市は23年8月、イタリアのファッションの専門大学「マランゴーニ学院(Istituto Marangoni)」と提携して「黎錦国際人材育成プログラム」を立ち上げた。海南省からは30名の黎錦の職人が選ばれ、2年間4学期にわたる無料研修を受けた。譚さんもその一人だった。
「皮革と黎族の錦との組み合わせは、異なる2つの素材のコラボレーションで新たな輝きを放つ」「大小様々な模様の組み合わせが奥深い美観を生み出している」、研修会では海外の著名なデザイナーたちが新しいアイデアを持ち込み、その発想は譚さんに大きな影響を与えた。身の回りのあらゆるものが、彼女のインスピレーションの源となった。
「授業後の課題で、植物のビーズでアクセサリーを作り、それを腰のベルトに織り込みました。それを店に置いたら観光客がすぐ手に取りました」、彼女はこう話す。
昨年9月初め「パリ・ファッションウィーク」で衣装のデザインに参加できる機会を得た譚さんは、大きな緊張と興奮を覚えた。
彼女は「デザイナーから渡されたデザイン画をもとにして、私たちは『意匠紙』(織物の詳細な指示図となる方眼紙)に細かい書き込みを行い、それをまたよく確認してから、地元の織工たちに『意匠紙』を配布しました」と説明する。
わずか半月で、訓練生たちは10種類のパターンとその材料となる30種類近い生地を提供した。彼らがデザインに参加した「黎族の錦」を取り入れた衣装が、ついにパリのランウェイで、特別な輝きを放ったのだ。
五指山市文化館の王宇釗(Wang Yuzhao)副館長は「国際交流活動への参加は、より多くの人びとに黎族の錦を知ってもらい、黎族の文化を理解してもらうだけでなく、無形文化遺産の継承者たちが新しいデザインコンセプトを吸収して、ファッション要素を作品に取り入れることで、黎族の錦を時代に遅れたものにしないためです」と話す。
五指山市は23年から、才能ある人材4グループ69名をイタリアのミラノファッションウィークに派遣して、無形文化遺産の技術で織られた衣装やその工芸技術を披露している。またシンガポールやマレーシアで開催された観光や文化振興イベントにも参加している。
国際的な舞台に登場したことで、黎族の錦には市場的な利益がもたらされた。パリ・ファッション・ウィークのイベントが終了すると、譚さんはすぐに省外の企業から黎錦1500枚の製作プロジェクトに協力を求める招待状を受け取った。
彼女は「黎族の錦をもっと多くの人びとに見てもらい愛してもらいたいと願って、商品注文にはずっと急ぎの対応をしています」と言う。
海南省観光・文化・メディア・体育庁は「黎族の錦は、中国の繊維産業における『生きた化石』として知られています」と話す。同庁によると、300平方メートルの黎錦の技能工房が海南省の6つの市と県に合計5か所建設され、16の技能伝承ビレッジも建設されている。
技能継承者の数は2万人以上に増加し、省内の100以上の小中学校で黎錦製作の授業を行っているという。
海南省は「黎錦伝統紡績、染色、織物、刺繍技術の保護と発展のための五か年計画(2025年~2029年)」を策定し、技術の保護と継承の総合的なレベルアップを図り、伝統産業を新たなステージに押し上げることを目指している。(c)Peopleʼs Daily/AFPBB News