【1月24日 東方新報】中国では春節(旧正月、Lunar New Year)に新しい衣服や靴を身につける習慣が根強く残っている。「中国布靴の都」と称される河南省(Henan)洛陽市(Luoyang)偃師区(Yanshi)では、靴製造企業は注文の生産に追われていた。製造ラインから次々と完成した靴が送り出され、世界各地へと「旅立つ」準備を整えている。

「2024年10月から忙しくなり、まずは海外向けの注文をこなし、春節が近づく今は国内向けの春物の生産で大忙しです」と、偃師区の双龍製靴工場の責任者、李志剛(Li Zhigang)氏は語る。2024年、同社の製品の80パーセントがロシア、韓国、インドなどへ輸出されたという。

 偃師区は「中国布靴の都」として知られ、60年以上の発展を経て、現在では600以上の完成靴製造企業と500以上の関連企業が集まり、約10万人がこの産業に従事している。偃師区は国内最大の布靴・織物靴の生産拠点となっている。

 黒い靴面に千層底(何層にも重ねた靴底)といったシンプルで素朴な外観と履き心地の良さは、多くの人が伝統的な布靴に抱く記憶だ。しかし現在、偃師区では布靴が多彩な変化を遂げ、ファッション性と流行性を兼ね備えた製品として国内外で人気を博している。

「布靴はもはや『土臭い』の代名詞ではありません」と、偃師区靴業協会の秘書長、張俊(Zhang Jun)氏は語る。現在の布靴は、綿布、平織り、帆布(はんぷ)、通気性のある革、メッシュなど多様な素材を使用し、靴底はゴム、ポリウレタン、複合底などを採用している。これにより、従来の布靴が持つ「水に弱い」という欠点を克服しつつ、柔軟で快適な特性を維持している。

 公式データによれば、偃師区の布靴産業はすでに年間100億元(約2139億1400万円)規模を超えている。2024年には、偃師区で4億足以上の靴が生産され、その生産額は120億元(約2156億9680万円)に達した。

 現在、国内外の靴業市場では激しい競争が繰り広げられている。その中で、製品の競争力を向上させるために、革新が多くの靴製造業者の課題となっている。

 過去2年間で、漢服(中国伝統服)や新中式(モダンチャイニーズスタイル)の服装がブームとなり、偃師区の靴製造業者も市場の変化に応じて新しいデザインを取り入れている。

 偃師区の靴デザイナー、馬育文(Ma Yuwen)氏は、歴史的文献を参考に、靴のデザインや素材に中国の伝統的要素と現代的な美学を融合させ、伝統産業に新たな活力をもたらしている。

「90後(1990年代生まれ)」の靴製造業者、劉航鷹(Liu Hangying)氏は、市場の需要に応じた製品を開発し、民族風や刺繍入り布靴のデザインを重視している。「人びとは伝統文化に関心を寄せており、今後数年間は民族風や刺繍入り布靴が市場で需要を維持するでしょう」と語る。

 さらに、高級靴デザイナーの付孔勇(Fu Kongyong)氏は「布靴の健康性と快適性が常にその大きな魅力です」と述べる。人びとの健康意識が高まる中、一部の偃師製靴工場は布靴に艾草(ヨモギ)などの漢方素材を取り入れたり、マッサージ効果のあるインソールを採用したりしている。また、最新技術や新素材を活用することで、靴をより耐久性の高いものに仕上げている。

 最近流行しているトレーニングシューズ、ダッドスニーカー、クラシックなキャンバスシューズなども、偃師区で幅広く生産されており、布や色、デザインのバリエーションにこだわり、ファッション性と実用性を両立させている。

「海外市場の布靴需要は地域ごとに異なります」と李志剛氏は言う。例えば、ヨーロッパやアフリカの消費者は鮮やかな色合いの布靴を好む一方、東アジアの消費者は控えめでシンプルなデザインを好む傾向があるという。

 高いコストパフォーマンスと優れた品質を武器に、偃師区の靴産業は外需の拡大に成功している。2023年には偃師区から1億6000万足以上の布靴が輸出され、年間総生産量の約40パーセントを占めた。これらは米国、日本、韓国、東南アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南米など50以上の国や地域で販売されている。

 偃師区の布靴産業は、革新と伝統を融合させることで、国内外でさらなる成長を遂げようとしている。(c)東方新報/AFPBB News