【10月30日 AFP】気候変動が人の健康に及ぼす影響を監視する国際研究事業「ランセット・カウントダウン(Lancet Countdown)」は30日に発表した年次報告書で、気候変動による人の健康への脅威は記録的に増大していると警告した。

 同報告書は世界保健機関(WHO)など国連(UN)機関の専門家122人が作成。過去8年にわたって追跡してきた15指標のうち10指標が「憂慮すべき新たな記録に達した」と指摘した。これには異常気象の増加、暑さによる高齢者の死亡、感染症の拡大、干ばつや洪水による食料不足などが含まれている。

 報告書によると、暑さが原因で死亡した65歳以上の高齢者は、1990年代から167%増加している。

 気温上昇により生息範囲が拡大した蚊が媒介するデング熱の感染者数は昨年、世界で500万人を超え、過去最多を更新した。

 また 2016~22年に世界の森林被覆の約5%が失われ、人類が排出する二酸化炭素(CO2)の吸収力が低下した。

 さらに報告書は、石油・ガス企業や一部の政府、銀行などが気候変動において「火に油を注いでいる」とも指摘した。

 報告書によると、記録的な利益を上げている大手石油・ガス企業は昨年以降、化石燃料を増産している。また多くの国の政府が、ロシアのウクライナ侵攻による石油・ガス価格の高騰への対策として、化石燃料への新たな補助金を支給した。

 ランセット・カウントダウンのマリーナ・ロマネッロ(Marina Romanello)事務局長によると、2022年の化石燃料補助金は世界で1.4兆ドル(約210兆円)に達し、「より健全な未来への移行を実現するためのいかなる資金源よりもはるかに多い」と指摘した。

 ロマネッロ氏は「今すぐ行動を起こさなければ、未来は非常に危うい」と警告。「何年も言い続けてきたことだが、もう無駄にできる時間はまったくない。これまでに無駄にした時間の代償は、人命で支払われている」と訴えた。

 また同氏は日常レベルでできる対策として、気候に優しい食生活、化石燃料を使わない移動、化石燃料に投資する銀行との取引をやめること、地球温暖化対策を約束する政治家への投票などを挙げた。(c)AFP