【9月17日 AFP】米ジョージア州で、人工妊娠中絶を制限する州法のために医療処置が遅れ、女性が死亡する事例が明らかになった。調査報道メディアのプロパブリカ(ProPublica)が16日、報じた。生殖に関する権利を擁護する団体などからは怒りの声が上がっている。
 
 アンバー・ニコル・サーマンさん(28)は2022年8月、人工中絶用の薬剤服用に伴い、まれな合併症を発症し、緊急手術中に死亡した。州が設置した調査委員会は、サーマンさんが必要な処置を受けるまでに「防ぐことができた」遅延があり、そのために死亡したとしている。

 ジョージア州では、医療上の理由がある場合を除き、胎盤鉗子(かんし)とキュレットを用いる中絶処置「D&C法」を行うことを重罪とする州法が施行されている。医療関係者の間からは、例外の定義が曖昧で解釈が難しいとの指摘が出ていた。

 生殖に関する権利の擁護を訴える人権団体「リプロダクティブ・フリーダム・フォー・オール(Reproductive Freedom for All)」のミニ・ティマラ(Mini Timmara)代表は、「ドナルド・トランプ(Donald Trump、前大統領)とブライアン・ケンプ(Brian Kemp、知事)が中絶を禁じていなければアンバー(サーマンさん)は今も生きていただろう」と主張。「彼らの手は血にまみれている」と非難した。

 連邦最高裁は2022年、中絶の権利を認めた判決を覆した。これを受け、22州で立て続けに中絶が禁止・制限され、今年の大統領選の主要な争点にもなっている。

 プロパブリカは今回の事例について、「防ぐことができた」はずの中絶制限関連の最初の死亡例だと説明。近日中に二つ目の事例に関しても詳細を報じる予定だとしている。

 プロパブリカによると、サーマンさんの友人のリカリア・ベーカーさんは、サーマンさんは生活の安定を維持するため双子の妊娠中絶を決断したと話している。

 サーマンさんは健康で、医療機関のアシスタントとして勤務。6歳の息子と最近、新しいアパートに引っ越し、看護学校に進学する計画だった。

 サーマンさんは外科的処置による人工妊娠中絶を望んでいたが、ジョージア州では6週以降の中絶が禁止されているため、車で数時間かかるノースカロライナ州のクリニックで処置を受けることにした。

 しかし、手術当日、交通渋滞のため予約時刻に遅れてしまった。

 クリニックはそこで、ミフェプリストンとミソプロストールを用いた薬剤による中絶を提案。この手法は安全性は高いものの、まれに合併症を引き起こす可能性があった。

 サーマンさんは薬剤投与後、数日間にわたり容体が悪化。大量の出血と吐血が認められたため、ジョージア州ストックブリッジ(Stockbridge)のピードモント・ヘンリー病院(Piedmont Henry Hospital)に搬送された。

 そこでは胎児組織が完全に排出されていないことが判明し、「急性重症敗血症」と診断された。

 だが、容体が急速に悪化していたにもかかわらず、病院がD&C法に踏み切ったのは17時間後だった。

 D&C法を始めた時点で状況は極めて深刻で、開腹手術が必要となった。開腹したところ、子宮摘出も必要であることが判明したが、その手術中に心臓が停止した。

 州の調査委は、早い段階でD&C法を行っていれば、サーマンさんの命は助かった「可能性が高い」と結論付けている。(c)AFP