【8月30日 Xinhua News】中国で原木ではなく草本植物を用いてキノコを栽培する「菌草」技術を開発した林占熺(りん・せんき)氏は、80歳を過ぎても忙しく活動を続け、海外へもこの半年で4回出かけている。

 旧暦1月15日の元宵節(2月24日)には南太平洋の島国フィジーの菌草畑で研修生に講義し、初夏には長年勤務したパプアニューギニアと菌草技術が初めて国際的な賞を受けたスイスを再訪し、技術の応用と産業の発展に関する現在の考えを披露した。8月は、初旬に東アフリカのルワンダで若い生産者らの収穫作業に参加して彼らが大きなキノコを手に満面の笑みを浮かべる姿を目にし、中旬にはエジプトで農業相に菌草技術の応用による砂漠化対策の利点を紹介し、協力の見通しについて意見交換した。

 林氏は国内と国外で30年以上にわたり貧困と闘ってきた。福建省福州市の福建農林大学国家菌草工程技術研究センターにある彼のオフィスに置かれた地球儀には、菌草技術が世界に残した足跡が記され、その数は106カ国・地域に及ぶ。

 貧困扶助のために生まれた技術

 林氏は研究チームを率い、数十年かけて高収量、高品質で痩せた土地に強く、日照りや塩類・アルカリ性土壌に耐性のある草本植物を選抜育成した。原木に代わり食用キノコ栽培に用いる植物として「菌草」と名付けたが、タンパク質が豊富で成長が早く、環境適応能力も高いことから、今では家畜飼料にも広く使われている。

 6月末、林氏はジュネーブで開かれた世界貿易機関(WTO)の「貿易のための援助(AFT)」第9回グローバル・レビュー会合に出席。スピーチの中で、福建農林大学の菌草科学実験室は今世紀初め、当時、福建省長だった習近平(しゅう・きんぺい)氏の後押しと支援の下で設立されたと紹介した。

 林氏が初めて国外に出たのは1992年10月。第20回ジュネーブ国際発明展に参加した。菌草技術という新たな学際的研究は、林氏が驚くほど高く評価され、国際審査員から「最も合理的」「最も経済的」との声が寄せられた。福州では林氏が帰国するより早く、海外から技術の導入を求める電話が鳴った。林氏には「菌草技術は貧困扶助のために生まれたものであり、貧困扶助のために使われるべき」という信念があった。

 菌草技術が福建省から全国、さらに世界へ普及したのは、習近平共産党中央委員会総書記の長年にわたる関心と自らの推進が欠かせず、中国の科学者の勇敢な開拓、地道な貢献が欠かせなかった。

 習氏は福建省共産党委員会副書記だった1997年、貧困扶助の視察で訪れた寧夏回族自治区で、菌草技術を福建省と同自治区の対口(カウンターパート)貧困扶助の協同プロジェクトにすることを支持。任務を受けた林氏は、チームと共に草の種やキノコの菌株を持って寧夏の西海固地区に赴き、現地の自然条件に合わせてゼロから課題に取り組んだ。

 菌草技術はその後、全国31省・自治区・直轄市へ続々と普及し、貧困脱却難関攻略と農村振興に積極的に貢献した。

 福建省長を務めていた習氏が2000年、パプアニューギニア東ハイランド州のラファナマ知事の訪問を受けた際に菌草技術を紹介すると、林氏とチームはパプアニューギニアのへき地で精力的に働き、深く根を下ろした。

 菌草は「中国の草」としてより広い山と海を越え、アジア太平洋、アフリカ、中南米など広大な「グローバルサウス」の国々で次々と根を張り、花開き、実を結んだ。

 貧困扶助のための普及

 林氏は今年8月初め、ルワンダで開かれたアフリカ地域の菌草技術セミナーで、かつての教え子、ルワンダ初の菌草プロジェクトコーディネーター、アグネス・アインカミエさんと再会した。アインカミエさんは2007年に大学を卒業すると、中国の菌草専門家と出会い、自らの進むべき道を見つけた。

 中国の専門家たちと一緒に働く毎日は「気持ちを奮い立たせてくれた」「多くの人を助けられるのが何よりうれしかった」とアインカミエさんは語る。菌草技術は現地で大いに歓迎され、特に女性や若者は研修を受けて生計の道や活路が開け、収入が2倍以上になった人もいるという。

 8月15日にはカイロでエジプト農業科学アカデミーのファシ教授と17歳の息子の訪問を受けた。ファシ氏は1995年に福州で開かれた第1回菌草技術国際セミナーに参加し、海外で技術を担う最初の中核的人材の一人となった。林氏の今回のカイロ訪問で、同アカデミーは協力を引き続き深めていく意向を積極的に表明した。

 菌草技術国際セミナーはこれまでに約350期開かれ、1万4千人余りが受講した。菌草技術は18言語に翻訳され、世界に広がり続けている。

 2月にフィジーで開かれた太平洋島しょ国菌草技術セミナーに参加したパプアニューギニア人受講生のウキさんも中国の専門家の「旧友」といえる。2000年にこの技術に関わるようになって以来、パプアニューギニアで菌草技術を広め、多くの農家が収入を増やし、生活を改善していくのを見てきた。ウキさんは、菌草技術の発展は国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と一致し、発展途上国の貧困削減と持続可能な発展を着実に支援していけると信じている。

 8月初めにアフリカ地域の菌草技術セミナーを開いた際には、国連職員と外交使節団がルワンダを訪れ、アフリカにおける菌草技術と産業の発展状況を視察した。国連事務総長室のコートニー・ラトレー官房長は、菌草技術には「強い耐性」という際立った利点があるとし「アフリカ大陸の全ての発展途上国にとって価値が高く、非常に適している」と評価した。

 貧困扶助を通じた発展

 6月末にジュネーブで開かれた会合では、フィジー・ナイタシリ州から来たセルワイア・カブカブさんが林氏の隣に座った。彼女は菌草技術の受益者であり、菌草技術を通じてより多くの人々に利益をもたらしている。

 フィジーではこの10年で2400人以上が菌草技術の研修を受け、同国の菌草栽培面積は2千ヘクタールを超えた。

 カブカブさんは2019年、地元の女性12人を伴って菌草技術セミナーに参加。修了後は小さな農場を始めた。彼女の助けにより、多くのキノコ農家の女性が菌草を使って自立への第一歩を踏み出した。

 タンザニアのキクウェテ元大統領は2016年(当時は前大統領)に福建農林大学を訪問した際、菌草技術をタンザニアの発展に役立てたいと林氏に語った。今年8月上旬に2人がタンザニアで再会すると、キクウェテ氏は、タンザニアでは近年、菌草技術がよく発展し、自分の牧場にも植えていると林氏にうれしそうに告げ「菌草はこの国でもっと成功すると確信している」と語った。

 30年間で海外に行った回数は数えきれず「100回以上はあるだろう」と林氏は語る。海外での最近の観察を踏まえ、菌草産業を発展させて貧困扶助の成果を固めるには、技術をいかに応用すればよいのかを常に考えている。

 2月のフィジー訪問では、塩類・アルカリ性土壌への菌草技術の応用という研究課題を実施した。太平洋島しょ国を含む発展途上国が気候変動への対処策を模索するための実験であり、理想的な結果が得られたという。

「菌草技術が歩んできた道は、人々が貧困から脱却する道、中国が世界に貢献する道であり、人類が現代化に向けて新たな模索を続ける道でもある」。林氏はジュネーブで、世界から集まった会合出席者にこう語った。(c)Xinhua News/AFPBB News