北京のアマツバメは中軸線の生態保護の証
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【8月14日 CNS】「あまりの人気で、胸につけていた雨燕(アマツバメ)のバッジが誰かに取られてしまいました」、清華大学(Tsinghua University)教授で北京中軸線世界遺産登録申請文作成グループの責任者・呂舟(Lu Zhou)氏は、世界遺産登録決定の夜の熱狂ぶりを記者団にこう話した。
雨燕のバッジは、世界遺産登録の一番人気の記念品となり、あっという間に空になったという。
北京雨燕は、中軸線申請の最初のデジタル画像であり、この新しく世界遺産に登録された場所の固有種の鳥で、中軸線上の多くの建築物でその姿が見られる。北京雨燕は北京という地名から命名された世界で唯一の野生の渡り鳥だ。イギリスの鳥類学者ロバート・スウィンホー(Robert Swinhoe)が、1870年に北京の正陽門(Zhengyangmen)付近で初めてサンプルを採集したことからこの名が付いた。
中軸線上に位置する正陽門は、雨燕が繁殖する上で最も重要な場所の一つで、城門や城壁に設けられた櫓(やぐら)の屋根には構造上狭い隙間がいくつもあり、雨燕にとって絶好の営巣場所となっている。この鳥は600年以上前からこの地で生息していると言われており、夕方になると正陽門など古い建物の上を群れながら飛び回る雨燕の姿が、あたかも北京の象徴のように映るため、北京の人たちから「北京の街の妖精」とも呼ばれている。
野鳥写真の愛好家である顧(Gu)さんによると、北京雨燕の写真を撮る時は、正陽門のように伝美しい彫刻や色彩がほどこされた伝統的な建築物を背景に撮るのが最適だという。
この「小さな妖精」は過去二度も生存の危機に瀕したことがあった。
以前から北京の多くの古い建築物の軒下や屋根を支えるために柱頭に設ける組み物の間に鳥の巣が作られていた。しかし、古い建築物の保護のため、20世紀末から多くの文物保存に関わる組織が、鳥の糞による建物の汚染損傷の防止のため、鳥の巣が出来そうな場所の外側に防鳥ネットを張りめぐらせた。
渡り鳥である雨燕は、自分用に設営した巣を頼りに渡ってくる。毎年3月末から4月初めにかけて、雨燕は南アフリカから1万キロ以上の長い飛行を経て北京に戻り、次の世代を繁殖させた後、また7月末から8月初めにかけて南アフリカに渡って行く。
雨燕の足の指は4本が前向きになっていて、電線や枝につかまることができない。そのため古い建物や壁の隙間にしか巣を作ることができない。ところが北京の古い建物が改修され、防鳥ネットが張られたことで、雨燕の営巣場所は大幅に減少してしまった。
そのため正陽門には、雨燕を研究し保護するため、防鳥ネットを設置しなかっただけではなく、やぐらの最上階には巣を常時観察するための数台のハイビジョンカメラを設置し、課題研究を続けている。
北京雨燕の巣や糞から微生物のDNAを抽出することで、研究者たちは雨燕が歴史的建築物の木レンガや木材に与える影響の程度を分析した。そして彼らは「雨燕の糞や巣は木造建築物に実質的な影響を与えない」との結論を得た。それで正陽門は安心して雨燕を受け入れることができるようになった。
またこの2年間でもう一つの危機があった。北京中軸線の世界遺産登録を進めるため、正陽門の門の上の物見やぐらやその他のやぐらを修繕する必要があったのだ。その修繕の過程で、どうすれば中軸線の文化ともいうべき生き物である北京雨燕を保護することができるのか、人びとに難題を突きつけた。
文物保護の関係者、鳥類の専門家、野生動物救護センター関係者が共に議論を重ね、最終的に、正陽門の城郭の最上階にある雨燕の巣は、可能な限り「現状のまま」無傷で保存するという方針が決定された。たとえ修繕の過程で巣を移動させなければならなかったとしても、元の巣の位置を記録しておき、修繕が終わった後に元の場所に戻すことにした。
正式な修繕作業が22年に開始されたが、当初6月に予定されていた木造構造部の作業は、ヒナの孵化のピーク時期を避けるため、1か月以上延期された。また修繕作業では雨燕の巣への出入りを妨げないよう、巣への通路も確保された。
正陽門の雨燕の保護は、関係当局から「都市の生物多様性の保全の典型的な模範例」と高い評価を得た。
こうした努力の積み重ねの結果、正陽門は長年にわたって北京の市街の中で雨燕が最も多く集まる場所の一つとなっている。地元のバードウォッチャーの中には、北京に雨燕が増えたと言う人もいる。(c)CNS/JCM/AFPBB News