【3月24日 AFP】英イングランド北部にあるダンブル牧場(Dumble Farm)で、薄茶色の毛並みをした雌のハイランド牛のモラグが小屋からゆっくりと出てきて、客が来るのを待っていた。

 ヨークシャー(Yorkshire)ベバリー(Beverley)近郊にあるこの牧場にが国内各地から人々がやって来るのは、牛乳やヨーグルト、チーズを買うのが目的ではない。モラグのような牛たちとスキンシップを図るためだ。

 夫やきょうだいらと牧場を経営するフィオナ・ウィルソン(Fiona Wilson)さんは、近代的な酪農経営に行き詰まり、昨年2月に牛とスキンシップを取れるサービスを始めた。

「犬や猫、馬と触れ合うのが好きな人もいるが、牛と過ごすのが好きだという人もいる」とウィルソンさんはAFPに語った。

「動物と一緒にいることで癒やされる。セラピーのようなものです」

 下院図書館の調査報告によると、英国の酪農場は1950年には19万6000か所あったが、1995年までに3万5700か所に激減した。

■ウクライナ侵攻で打撃

 おととし2月にロシアがウクライナに侵攻してからは、牛乳の価格が下落する一方で燃料や飼料、肥料の価格が上昇し、酪農家はさらに打撃を受けた。

 農業・園芸開発委員会(Agriculture and Horticulture Development Board)の最新の調査によれば、今年10月時点の酪農の就業者は推定7500人に上る。

 ダンブル牧場は、この7年のうち6年も洪水に見舞われ、年に数か月間、農場が水没する被害が多発した。

 ウィルソンさんによれば、従業員全員で一日14時間働き続けても赤字だった。昨年1月に多角化を決断し、どうしても手放す気になれない5頭を除いて牛を売却した。

 残した5頭は「おとなしくて人懐こい性格」だった。

「試しに牛に触れ合えるサービスを提供すれば、わずかながらでも副収入を得られ、私たちの仕事に人を巻き込めるようになるのではないかと考えた」「牛は好奇心旺盛な動物で、人が見に来ると興味を示す」と言う。

 自然保護や持続可能な農業に関する啓発活動も含まれる体験には、全国から牛好きのカップルや家族連れが集まる。

 チケットは1人50ポンド(約9600円)。数か月前には完売する。

 牛舎の中では、眠そうな牛たちが、お金を払ってやって来た参加者に顎をかいてもらったり、柔らかい毛並みをブラッシングされたりして満足そうにしていた。

 ハイランド牛が大好きな妻のためにチケットを買ったという男性は、「動物は全部好き。特に抱き締めたくなるような動物が好きなので、大型の動物に寄り添って抱き締められるなんて最高だ」と話した。

 男性の妻は「すごくブラッシングしやすい」と話した。

「こんなにリラックスできるとは思ってもみなかった。とてもかわいい。すごく癒やされる」

 映像は2023年11月に撮影。(c)AFP/Stuart GRAHAM