【1月29日 東方新報】中国の若者たちに「アインシュタインの脳」が売れているという。と言っても本物ではない。脳のホルマリン漬けが送られてきたら気味が悪いだけだ。

「アインシュタインの脳」は、中国のEコマースで昨年あたりからしきりに売り出されるようになった。実際に何らかの商品が送られてくるわけではない。サイトの説明文には「お金を払えば、アインシュタインの脳があなたの脳に加わり、徐々に成長していきます」などと書いてある。いわば、「気分」「癒やし」を買うもので、値段は1角(約2円)からせいぜい1元(約20円)だ。

 売り手側は「買えばIQが1上がる」などのさまざまなうたい文句を添えているが、当然そんなはずはなく、買う側もウソと知った上で金を払う。注文が9万を超えた販売業者もあるという。

 浙江省(Zhejiang)の高校生、鄭寧(Zheng Ning)さんは、期末試験の復習に忙しい時期に偶然、Eコマースのプラットフォームで5角(約10円)の「アインシュタインの脳」を見つけ購入した。彼女は購入後、顧客サービスとチャットし、「試験頑張って」とメッセージを送ってもらった。購入した理由は好奇心とちょっとした験担ぎのためだという。

 鄭さんは、顧客サービスとのチャットを楽しんだが、そこまで求める人ばかりではない。シャレで買ってみたり、購入画面のスクリーンショットを友人と共有したりと動機はそれぞれのようだ。縁起が良い話にあやかろうとしているだけかもしれない。

 こうしたバーチャル商品はバリエーションも出現して、「文系脳」「理系脳」「試験脳」などのラインアップもある。

 これらは「ネット上のトレビの泉」のようなものらしい。イタリアのローマを訪れた観光客は、願いがかなうという言い伝えに従ってトレビの泉に背を向けてコインを投げるが、願いがかなわず「投げた10円玉を返せ」などと真剣に怒る人はいない。10円分以上の楽しい思い出をもらったからだ。

 中国心理衛生協会会員で心理カウンセラーの張燕(Zhang Yan)氏は、こうした「感情商品」の出現と癒やしの需要は密接に関連していると指摘する。

「仮想感情商品は、少なくとも一部の心理的なニーズを満たし購入者に一時的な慰めや励ましを与え得る」

 だが同時に、「このような商品を購入する行為の潜在意識には人間関係に対する回避や防御が含まれている」という問題点を示した上で、「習慣的に依存すべきではない」と注意を呼びかける。

 一方、「商品は仮想であっても良いが、ルールを欠いてはいけない」と警告したのは、江蘇省(Jiangsu)の消費者権益保護委員会だ。同委員会は、仮想商品は精神的な癒やしをもたらすことができる点を認めた上で、売り手側の商品説明などが虚偽広告に当たる疑いも指摘し、商品の特殊性を明示する必要性などを強く求めている。

 仮想の感情商品を買い求める中国の若者たち。学校でも社会に出ても激しい競争にさらされてちょっと疲れてしまったのかもしれない。(c)東方新報/AFPBB News