【1月26日 AFP】米アラバマ州は25日、国内で初めて窒素吸入による死刑を執行した。国連(UN)人権トップは、拷問に相当する可能性があるとして遺憾の意を表明した。

 刑の執行を受けたのは、ケネス・ユージーン・スミス(Kenneth Eugene Smith)死刑囚。1988年に依頼を受け人を殺したとして死刑を言い渡され、その後30年以上にわたり収監されていた。午後8時25分(日本時間26日午前11時25分)に死亡が確認された。

 アラバマ州アトモア(Atmore)のホルマン刑務所(Holman Prison)で執行された。マスクを装着した死刑囚に窒素を吸入させ、窒息させるという方法だった。

 地元ニュースサイトAL.comは執行に立ち会った記者の話として、スミス死刑囚は「2〜4分ほど身をよじり、手足をばたつかせ、その後5分間ほど荒く息をしていたと報じた。

 アラバマ州矯正当局トップは報道陣に対し、同死刑囚は「できる限り息を止めようとしていた」ように見え、「不随意運動」があり、あえいでいたと話した。

 AL.comによると、執行への立ち合いが始まってから死亡確認まで、35分足らずだったという。

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のボルカー・ターク(Volker Turk)高等弁務官は今回の執行について遺憾の意を表し、「この窒素吸入による窒息というこれまで試されたことのない新たな方法は、拷問か、残酷で非人道的、尊厳を傷つける処遇に当たる恐れがある」と指摘した。

 CBS系の地元局によると、同死刑囚は「今夜アラバマの行為により、人類は一歩後退した」と最期の言葉を残した。

 米国では窒素吸入が死刑の執行方法として使われたことはないが、動物に使用されることはある。

 OHCHRは、米獣医学会は窒素を用いて大型動物を安楽死させる時は麻酔を使うよう推奨していると指摘。一方、アラバマ州は、窒素吸入による死刑執行前の麻酔については定めていない。

 死刑制度に反対の姿勢を取る欧州連合(EU)報道官も、今回の死刑執行について「極めて遺憾」だと述べ、「専門家によると、この手法は特に残酷で異例の懲罰方法だ」と指摘した。

 これに対しアラバマ州は「これまで考案された中で、恐らく最も人道的な執行方法」だと説明している。

 スミス死刑囚と共犯者は1988年、牧師の男から妻の殺害を依頼され、1000ドルずつの報酬を得て実行。依頼者は、妻の死から1週間後に自殺した。共犯者は2010年に薬物注射による死刑の執行を受けた。スミス死刑囚の刑執行は22年に予定されていたが、所定時間内に薬物投与の処置ができず中止されていた。(c)AFP