蛇口をひねるといつでも水が出て、スイッチひとつで明かりがつく――日本では当たり前の生活がそこにはない。安定したライフラインの供給は南アフリカにとって喫緊の課題だ。

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南アフリカの光と影――脆弱な社会インフラ

 アフリカ大陸の国で唯一G20に加盟し、中国やブラジルと共にBRICSを構成する南アフリカ。豊富な鉱物資源を有し、GDPはアフリカでトップ3に入る。

 一方、長引くインフレや高い失業率など、国内経済は厳しい状況が続いている。特に、企業活動を停滞させ深刻な問題となっているのが、電力に関するトラブルだ。政府所有の発電所は設備の老朽化で稼働率が低下し、停電が頻発。電力不足により水道施設が稼働できなくなる事態も発生し、市民生活にも大きな影響が出ている。

電力危機の長期化懸念

 石炭火力発電所の多くはアパルトヘイト(人種隔離政策)時代に建設されたため老朽化が進み、現在、設備点検・補修のピークを迎えている。また、国営電力会社エスコムの財政難も発電所の運営に影響を与えているという。毎日数時間の計画停電が今でも続いており、電力不足の長期化が懸念されている。

 エスコムは、南アフリカの電力危機は少なくとも今後5年間は続く可能性があると警告している。最良のシナリオでも、同国の電力需要を満たすのに十分な電力を確保できないとし、発電所の機能低下を食い止められず、新しい発電能力を早急に導入できなければ状況はさらに悪化するという(*1)。

蓄電池で送水施設をバックアップ

 NECのグループ会社で、アフリカでのICTソリューション事業を拡大するNEC XON(*2)は2023年、官民共同の水道事業体であるLebalelo Water User Association(LWUA)が運営するリンポポ州のクラファム・ポンプステーションに緊急用蓄電池システム(BESS)を設置するプロジェクトに参加した。

クラファム・ポンプステーションで稼働する緊急用蓄電池システム(BESS)

 BESSでリアルタイムに電力不足を解消することにより、水のくみ上げ作業を中断することなく、地域社会や商業利用者への安定した水の供給を確保する取り組みだ。

 2002年に設立されたLWUAは、20年以上にわたって上水インフラを運営している。計画されている100キロにおよぶパイプラインで水が供給されるのは、ヨハネスブルクから北東へ300キロほど離れたセクフネ地区自治体およびモガラクウェナ地方自治体の全域だ。同地域の主な産業は鉱山業で、クラファム・ポンプステーションからの水供給は鉱山採掘の重要な役割を担っている。完成すれば、100以上の自治体の約38万の住民に生活用水を供給することになり、地域の重要なライフラインの一角を担う。

緊急用蓄電池システム(BESS)

 クラファム・ポンプステーションのBESSは2023年7月に運用をスタートした。BESSの活用によってポンプステーションでは現在約4時間、電力を自給自足している。

 南アフリカでは2024年1月現在も断続的に電力供給停止が続いているため、BESSは欠かせない存在だ。

課題を乗り越えて

 今回のプロジェクトではサプライチェーンが最大の課題だったと、NEC XONの再生可能エネルギー・蓄電担当のゼネラルマネジャー、ヘルマン・ヴィルヨーン氏は振り返る。

NEC XON 再生可能エネルギー・蓄電担当の
ゼネラルマネジャー、ヘルマン・ヴィルヨーン氏

 グローバルに資材を調達する際、半年以上かかることもあるというが、世界的な半導体不足に加えてロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルス感染症の影響で、資材や備品の入手がさらに困難になっている。

社会インフラを担う責任

「私たちにはこのプロジェクトに対する大きな責任がある。社会インフラは生活に直結している」とヴィルヨーン氏は言う。

 今後は鉱山の現場以外にも、農地や教育・娯楽施設などさまざまな場所に水を届けられるようになるとし、「このプロジェクトは地域のコミュニティーにとって、まさにライフラインになる」と話す。

 LWUAのプラカシム・ムードリア会長は、今回のプロジェクトが地域の経済成長につながるとし、「このモデルが、多くの同様のインフラ・プログラムのきっかけになれば」と期待を寄せた。

 また、南アフリカのセンゾ・ムクーヌ水・衛生相は、このプロジェクトが同国の発展における大きな節目であるとの認識を示し、「このパートナーシップは、水道サービス提供の新時代を象徴するものだ。南アフリカにおける質的転換の飛躍を象徴するものであり、誇りに思う」と語った。

アフリカ全域に広がるインフラ需要

 こうした電力不足がアフリカの各地で懸念される中、NEC XONは蓄電システム事業をさらに拡大し、南アフリカのみならず隣国でも事業を展開して、地域全体での社会貢献を目指している。

「この蓄電ソリューションは、多くの問題を解決してくれる」とヴィルヨーン氏は言う。

「こうした問題は南アフリカだけではない。アフリカの一部の地域ではもっと深刻。アフリカ全域のコミュニティーに生活基盤の一部を提供することはとても大きな社会的責任がある」

 NEC XONは、国際競争力をさらに高め、アフリカにおけるインフラの供給をけん引していきたいとヴィルヨーン氏は意気込む。「アフリカ大陸の主要プレーヤーになるために、国際的な能力を拡大したい」

NECの社会課題解決への取り組み

 NEC XONは送水事業以外にも、リンポポ州にある学校のインフラ整備プロジェクトなどに参加している。NEC XONは、パイロット校に選ばれたクワタ小学校に太陽光発電と蓄電の統合ソリューションを提供している。

 NECグループでは、幼児指紋を活用したグローバルヘルスの取り組みや、ネット環境がない場所でのeバウチャーの活用など、ICTを活用してグローバルな社会課題の解決に取り組み、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造する「社会ソリューション事業」を推進している。

 持続可能な社会の実現を目指したNECの挑戦に期待したい。

SDGs達成に貢献する、国際機関との共創活動 | NEC
本件に関するお問い合わせ | NEC

*1 出典:Daily Investor
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*2 1996年に設立。南アフリカとナイジェリア、ケニアに地域本社を置き、サハラ砂漠以南のサブサハラ・アフリカ地域を拠点に、通信事業者向けネットワーク構築事業やセキュリティーを中心とした政府・自治体向けITシステム構築事業、マネージドサービス事業などを展開している。NECは2015年、XON社に25パーセント出資し、その後、出資比率を70パーセントに高めて同社を子会社化した。