【5月17日 AFP】鮮やかな緑に黄色の渦巻き、映画スターの顔、羽ばたく鳥や建築物──昨年12月に国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたバングラデシュの三輪自転車タクシー「リキシャ」とそのカラフルなペインティングが危機的状況にある。

 運転手は長年、リキシャの車体を動くキャンバスとして活用してきた。しかし、高速の電動リキシャに押され、この伝統工芸の消滅が危惧されている。

 リキシャの整備士、モハマド・サブジさん(40)は「今では珍しくなった」とリキシャアートの衰退を嘆く。「私が若かった頃のリキシャは、カラフルなアートやデザインで飾られていた。今ではそうしたものは少なくなってしまった」

 リキシャ運転手のシャヒッド・ウラさん(72)は、約2000万人の人口を擁する首都ダッカの狭い道路を半世紀にわたって往来してきた。リキシャアートの無形文化遺産登録には「誇りを感じる」と喜ぶ。

 ユネスコはリキシャアートについて「都市の文化的伝統の重要な一部であり、都市のフォークアートのダイナミックな一形態で、住民にアイデンティティーの共有感覚を与えている」と評価した。

 だが整備士のサブジさんは、燃料やその他の必需品の物価高騰が、リキシャアートにとっても大きな打撃になっていると嘆いた。「運転手がリキシャの所有者に支払う使用料も上がり、デザイン料も高くなった」

 運転手は所有者から自転車をレンタルしており、塗装費用は通常、所有者が負担する。デザインの複雑さにもよるが、塗装には45~90ドル(約7000~1万4000円)ほどかかる。新品の自転車が約230~270ドル(約3万6000~4万2000円)なので、塗装料がその約3分の1を占める。

 一方、電動リキシャは新車で750~900ドル(約11万7000~14万円)と高価だが、採算が早く取れるとされる。

■死に絶える芸術

 リキシャアーティストのハニフ・パプさん(62)は、技術を習いにくる若者の数が減っていると語った。「今では誰も自分の子どもに習わせようとしない。教える側が食べていけないのを見ているからだ」

 ユネスコの無形文化遺産登録も、リキシャアートの衰退に歯止めをかけるものではないという。「遅すぎた。この国のリキシャアートは死に絶えつつある」

 ダッカの道路を縫うように走るリキシャは、いわば巡回美術展だとパプさんは言う。「例えば、これは平和のメッセージだ」と指さしたのは、鳥と家が描かれたのどかな田園風景だった。都会に出稼ぎに出て来た運転手が故郷に残してきたものだという。

「幸せな家族のメッセージだ。私たちは作品にそうしたメッセージを込めようとしている」

 映画のポスターが人気のデザインだったこともあった。

 パプさんはリキシャアートが「バングラデシュの遺産、私たち自身の創造物だ」と訴える。

「つらくて、辞めることもできたがそうしなかった。だが、私のように55年もこの仕事を続ける人はこれから出てくるだろうか?」とパプさんはリキシャアートの将来を憂えた。(c)AFP/Mohammad MAZED