おふくろの味「老干媽」 中国の国民的調味料にも流行の波
このニュースをシェア
【1月5日 東方新報】日本で中国料理は、北京、上海、広東、四川の「四大料理」に分類されることが多い。中でも一番辛いのが四川料理なのだが、調味料「麻辣醤(マーラージャン)」さえあれば、家庭でも意外においしく作ることができる。
中国で「おふくろの味」と呼ばれる麻辣醤が「老干媽(ラオガンマー)」ブランドである。マーボー豆腐や野菜炒めに入れたり、涼麺やご飯に直接つけたりして食べる。ある調査では、中国国内のスーパーマーケットの9割以上で売られており、麻辣醤全体で2割以上のシェアを誇っている。
その瓶のラベルに印刷されているのが、創業者の陶華碧(Tao Huabi)さんだ。彼女は中国の貧困地域として知られる貴州省(Guizhou)の山村で生まれた。20歳で結婚して2人の子どもに恵まれたが、しばらくして夫が事故で亡くなってしまう。シングルマザーになった彼女は生きるために、小さな食堂を借りて、凉面・涼粉専門店「実恵飯店」を始めた。
自家製の麻辣醤を作って、凉面、涼粉にあえて出したところ、店はとても繁盛した。凉面、涼粉を食べた客の多くがお土産に麻辣醤を買っていった。
彼女は不思議に思っていた。皆こんなに麻辣醤を買っていって食べ終わるのだろうかと。ある日の午後、麻辣醤が売り切れると、同時に凉面、涼粉を食べに来る客も来なくなった。おかしいと感じた彼女は店を閉め、周辺の凉面、涼粉屋さんを見て回ると、とても繁盛している。
その味を確かめると、繁盛している店は彼女が作った麻辣醤で味付けをしていた。
1989年、彼女は社員40人を雇って「老干媽」を生産する民営企業を創業した。彼女は社長になっても味覚の鋭敏さを保つために、コーヒーやお茶など味のする飲料は一切口にせず工場に立ち続けたという。小さな食堂で生まれた調味料は中国の庶民に愛され、老干媽は一大ブランドに成長していった。
ところが、中国の家庭料理にも健康ブームが押し寄せてくる。油は少なめで薄味が好まれるようになったのだ。「老干媽」などの麻辣醤は、唐辛子や大豆を発酵させたトウチなどを油に浸して作られる。当然だが、油は多めで味も濃い。時代に合わなくなってきたのだ。
売り上げにも徐々に影響が出てきた。中国メディアによると、2021年の老干媽の売上げは約42億1000万元(約838億円)で、貴州省民営企業トップ100(2022年)のランキング11位だった。前年の同じリストでは、売り上げは54億300万元(約1076億円)で、6位だったから大幅ダウンだ。
一部のSNS上には「企業努力が足りないのでは」「味が落ちた」などと芳しくない評判も流れている。同社は「味は変えていない」と否定するが、一度離れかけた顧客を呼び戻すのはたやすいことではないだろう。
中国メディアによると、彼女は老干媽などを息子たちに引き継ぎ引退していたが、売り上げが落ちたことを知り現場に復帰したという。今度こそ「おふくろの味」がきちんと息子たちに引き継がれるといい。(c)東方新報/AFPBB News