■「尊厳ある生活」

 中国の通信アプリ、微信(ウィーチャット)をのぞくと、国外への脱出願望の高まりが見て取れる。

 中国語メディアによると、「移住」という単語は昨年10月、1日当たり5億1000万回検索された。また、昨年1月末には「タイ移住」という言葉が1日に30万回以上検索されたという。

 タイには各種の長期滞在ビザがあり、欧州や北米よりも移住しやすいとされる。1年間の語学コースの費用は約700~1800米ドル(約11万~27万円)で済む。

「中国脱出願望は急に広がったと考えている」。ドイツのマックス・プランク社会人類学研究所(Max Planck Institute for Social Anthropology)に勤務する社会人類学者のシャン・ビャオさんはこう指摘した。

 タイは外国生活を試すのに理想的な国だとみなす中国人が増えたと言う。

 また、中国とビジネス上のつながりを維持したままの人が多かった1990~2000年代に比べると、完全に縁を切りたいと考える新たな傾向が認められると、シャンさんは語る。

 そうした人々は教育を受けてはいるが、必ずしもエリート層でも富裕層でもない。

 シャンさんは「彼らは国際人で、偏見がなく、基本的に自由を大切にしている。必ずしも政治的な自由というわけではなく、そこそこの、尊厳ある生活をしたいと考えている」と話す。

 これまでの世代とは異なり、海外で財を成すことは求めていないという。

 チェンさんの夫リンさんは、電子商取引の会社に勤めていた。一生懸命働き、貯金をし、早期退職を計画していた。しかし、紋切り型の周囲の考え方に息苦しさを感じるようになった。

「良い大学に行き、公務員など良い働き口を見つけたいという考え方ばかりだった」

 チェンさんとリンさんは、タイで貯金を取り崩して生活しながら、次はどうするかを模索中だ。

■蜜月の終わり

 イン・ウェンフイさん(31)は、タイを去る時が近づいている。

 パンデミックの最中に中国国境で足止めされた後、タイに入った。数か月たつと、帰国して仕事にすべてをささげるよう絶えず圧力を掛けてくる家族や同僚と顔を合わせるのが嫌になった。

 ウェンフイさんはAFPに対し「ここにいると自由な気持ちになる。中国ではやりたいことができなかった」と語った。

 仕事に没入していた中国時代とは打って変わって、チェンマイでは友人たちとホステルを運営しながら、毎日ジムに通い、料理も習う。子どもの頃からの夢で、当時は親に許してもらえていなかったギターも習っている。

「考える時間もある。どんな人生を送りたいのかを考えている」

 ただ、蜜月は終わりつつある。のんびりしたペースにいら立つようになり、次の段階を準備している。

「文化や仕事、収入の面で中国やチェンマイを上回る先進国に行ってみたい」と、ウェンフイさんは語った。(c)AFP/Sarah LAI