【11月1日 AFP】中国で活況を呈する電気自動車(EV)産業にあおられ、チベット高原(Tibetan Plateau)で希少金属リチウムの採掘ブームが起きている。だが、リチウム採掘がチベット文化や生態系に損害を与えると警鐘を鳴らす報告が1日、現地研究者のネットワークによって発表された。

 中国は世界最大のEV市場だが、低炭素型車両のバッテリーに使用されるリチウムの供給はほとんど他国に依存してきた。だが政府は最近、国内埋蔵量の約85%という膨大なリチウムが眠るチベット高原の開発に着手。状況が変わろうとしている。

 一方、チベット人研究者のネットワーク「ターコイズ・ルーフ(Turquoise Roof)」は、スピードと低コスト偏重の採掘業者による抽出・加工工程が環境汚染につながっていると指摘する。

 同グループは衛星データや公的資料を用い、チベット文化圏におけるリチウム採掘の影響とEVメーカーの関連性を明らかにした。

 実業家のイーロン・マスク(Elon Musk)氏が率いる米EV大手テスラ(Tesla)や、競合する中国の比亜迪汽車(BYD)といった企業が、「チベットのリチウムへの依存度を高めている」という。

「より大きく、より高速なEVは、より大容量のリチウム電池を必要とする。チベットに(カーボン)フットプリント(CFP)を残さずして、それはつくれない」と指摘している。

 ターコイズ・ルーフが引用した中国の地質調査によると、チベットから隣接する四川(Sichuan)省、青海(Qinghai)省にかけての鉱床には約360万トンのリチウムが眠っている。

 気候変動に特に脆弱(ぜいじゃく)な生物の多様性が高い地域と重なるが、「チベット人は富に殺到するこの採掘ラッシュにおいて、何の発言権も持っていない」と報告書は訴えている。

 例えば四川省のチベット族自治州では豊富なリチウム鉱脈が発見され、土地をめぐる入札合戦が起きた。最終的に中国EV用電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が落札したが、その間、地元のチベット人は「自分たちの牧草地が売りに出されていることも知らされず、ましてや土地の採掘について何ら相談もされていない」という。

 また四川省では、すでに採掘活動によって川の魚が大量死する事例も発生している。

 中国は欧米の輸出国との関係悪化に直面し、重要鉱物の国内供給を補強しようとしている。最近では米国が中国へのマイクロチップ輸出を規制したために、中国政府はEVバッテリー製造用のグラファイト(黒鉛)供給に制限をかけている。(c)AFP