【10月26日 東方新報】中国の秋の大型連休である国慶節連休(今年は9月29日~10月6日)で、今年は「ある場所」が人気スポットとなった。山東省(Shandong)淄博市(Zibo)にある「蒲松齢記念館」だ。明朝末期から清朝初期の文人・蒲松齢(Pu Songling)の旧居を拡張した施設。蒲松齢は異界や妖怪、化け物にまつわる短編小説集「聊斎志異(りょうさいしい)」を著したことで知られる。日本でも世界史が得意だった人は、人名や作品名に聞き覚えがあるだろう。

 その記念館に若者が突然詰めかけ、新たな「打卡(Daka)」スポットとなった。打卡とはもともと「タイムカードを打つ」という意味だが、現在は「SNSで映えるスポットから投稿する」意味で使われている。

 300年以上前の作家の旧宅が突然バズったのにはもちろん理由がある。往年の人気歌手・刀郎(Dao Lang)さんが今年7月に発売したアルバムの収録曲「羅刹海市(らせつかいし)」が、約1か月で再生80億回を超える爆発的ヒットになった。この「羅刹海市」は、「聊斎志異」に含まれる短編のタイトルと一緒だった。

 小説の「羅刹海市」は、家庭の事情で役人になることを諦めた美男の商人が航海の途中に遭難し、見知らぬ「羅刹国」にたどり着くことから始まる。そこでは容姿の基準が人間界と真逆で、美男の商人は「化け物」と恐れられる。商人は顔に炭を塗って京劇のような隈(くま)取りをすると出世し、国王にも重用されるが…という奇譚話だ。作者の蒲松齢も官界では立身出世がかなわなかった。

 刀郎さんの曲も小説の世界をモチーフとし、難解な歌詞ながら爆発的ヒットを遂げた。小説の「聊斎志異」は当時の社会の価値観を風刺した作品として知られ、刀郎さんの曲の歌詞もそのエッセンスを引き継いでいると受け止められた。現在の中国は急激な経済成長に伴いライフスタイルも大きく変化し、かつては美徳とされた伝統的な価値観が不要なものに変化している。

 受験勉強や激しい競争社会を駆け抜けながら、倫理や善悪の価値観が揺らぐ社会では必ずしもその努力が報われない。そんな思いを抱く若者が「羅刹海市」に、そして「聊斎志異」を書いた蒲松齢に共感しているのかもしれない。蒲松齢記念館を訪れて、人気スポットの訪問をSNSに投稿する「打卡(Daka=チェックイン)」する若者たちも、その心情はさまざまなようだ。(c)東方新報/AFPBB News